Q: 人前でしゃべるのが苦手で、すぐに緊張してしまいます。改善策を教えてください
緊張すると自然体でいられなくなってしまいます……
すぐに緊張するくせを治したいです。昔から人前でしゃべるのが苦手で、自分が発言する機会がある会議の前など、お腹が痛くなってしまいます。
頭が真っ白になり、変な汗をかいたり、動悸が激しくなったり、いつものような話し方をすることができません。
緊張ぐせは体質なのでしょうか。改善策があれば教えていただきたいです。
(みんみん さん/40代・会社員)
A:緊張は誰にでも起こること。過剰な反応にはひとつひとつ対処しましょう
慣れることが大事。頼れる漢方もあります
緊張は身を守るための正常な反応です
今回はみんみんさんからのすぐに緊張するくせを治したいというお悩みです。
緊張するというのは医学的には交感神経が緊張するということなのですが、交感神経が緊張すると脈が早くなり、これが動悸につながります。
また「手に汗握る」という言葉を聞いたことがあると思いますが、暑いと毛穴、つまり毛が生えている方から汗が出るのですが、交感神経の緊張による汗は、毛の生えていない側の手の平や額などに汗をかいてしまい、暑くないのに汗をかくため、一般的には変な汗をかくと表現されることも多いですね。
この交感神経が緊張するというのは外からの刺激やストレスに対しての防御反応なので、生物学的には身を守る正常な反応です。
しかし、これが行きすぎると上記のような症状が過剰に出て日常生活に支障が出てしまいます。
ではどうすれば良いのでしょうか? まずはこれは正常な反応で心配ないと理解することです。
自分を客観視することで、これは誰にでもある正常な反応の一部で自分にも今それが起こっているが、心配ないと理解することがまず第一歩です。
ストレス環境に徐々に慣れていくことが大切です
その上で、この過剰な反応が起こらないようにするにはひとつは人前でしゃべるストレスに慣れるということです。
例えば、体操選手の平均台の上での宙返りやサーカスの綱渡りなどを想像してみてください。想像するだけでドキドキして来ますよね。
でも実際の体操選手やサーカスの綱渡りの人はどうでしょう? 最初はとてもドキドキしたと思いますが、日々練習することで多少は緊張しても冷静でいられるようになっていった。つまり慣れていったということです。
ですので、人前でしゃべるのが苦手という意識から、人前でしゃべればしゃべるほと慣れて上手になる練習の過程だとまずはとらえてみてください。
今日も前よりは少し慣れてきた、しゃべるのが上手になったという感じです。
実際にパニック障害や高所恐怖症や飛行機に乗るのが苦手などの人の治療にはその状況を再現するシュミレーターなどを使って少しずつ慣れていく治療がされていますし、歯医者さんや髪の毛を切るのが苦手なこどもさんの場合ではまずは歯医者に行く、散髪屋さんに行くというところから初めて、次は椅子に座る、その次は少しだけ、歯を触る、少し髪を切るという順番で徐々に環境に慣れさせるということもされています。
同じようにまずは人のいないところでしゃべる、次は家族や友人などの前でしゃべる、次は少人数の前でしゃべる練習をさせてもらう、など場数を踏んで慣れることも大切です。
緊張を和らげるための漢方
それでも緊張してしまう場合には漢方薬で緊張をとり、リラックスさせる方法があります。
たとえば、四逆散(しぎゃくさん)という交感神経の緊張をとる漢方薬があります。僕の患者さんで試験などで鉛筆で答案を書いていると手の汗がひどく、回答用紙が汗でぐしゃぐしゃになってしまう患者さんがいたのですが、テスト前に四逆散を飲んでおけば大丈夫になった方もいます。
また動悸は漢方では気がさかのぼる症状と言って「気逆」というのですが、気を下ろしてリラックスする苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)というお薬があり、現在ではパニック障害などにも使用されています。
また子どもの夜泣きに使う抑肝散(よくかんさん)なども人前でしゃべる前の夜に飲んでおくとゆっくりと睡眠が取れてリラックスできます。
僕も学会発表の前などは抑肝散を飲んで寝るようにしています。学会発表や講演を頼まれて人前で長くしゃべる機会があると、出だしは緊張するのですが、話している途中で自分の話にうなづいてくれる味方の人を見つけてその人の方を見て話すようにすると、自然と緊張は治まってきます。
また両方の手のひらに労宮というツボがあるのですが、そこを軽くゆっくり押すと緊張が治まってくるので、話している途中でそのツボを押しながら話すのも良いかもしれませんね。
昔からこの上り症や動悸や変な汗をかいたり、頭が緊張で真っ白になる方はいて、それを昔の人は「奔豚気病(ほんとんきびょう)」と言っていました。現在でいうパニック発作のような感じです。奔豚は奔走する豚という意味で、まるで自分の体の中で豚が走り回っているような状態と昔の人は考えました。
それに使われた漢方薬が奔豚湯(ほんとんとう)なのですが、現在では手軽に使用できないお薬となっています。近い処方として先ほど述べた気逆に使う苓桂朮甘湯があります。
また戦国時代に武将が戦いの前に飲んだ将軍湯と呼ばれる漢方もあるのですが、なんとこの中身は便秘に使う下剤である大黄です。
これは大黄には下剤の作用があるとともに、気を鎮める鎮静作用もあるためで、冷静に戦いに臨めるように飲んでいたものだと思われます。
そういう意味では人前に出る前に少しお手洗いに行って用を足すのもリラックスに繋がるのかもしれませんね。
今回の記事がみんみんさんはじめ、緊張しやすい人の少しでも参考になれば幸いです。
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來村昌紀(らいむら・まさき)
頭痛専門の脳外科医として大学病院に勤務しながら漢方専門医の資格を取得。2014年、千葉県に、「らいむらクリニック」を開設。著書に『頭痛専門医・漢方専門医の脳外科医が書いた頭痛の本』『漢方専門医の脳外科医が書いた漢方の本・入門編』(ともにあかし出版)など。YouTubeチャンネル『らいむらクリニック チャンネル』でも、頭痛や漢方のお話を解説。
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