(『天然生活』2021年9月号掲載)
ずっと台所にいた母親が残してくれたもの
「子どものころ、母はずっと台所にいたというイメージがあります。夕食の準備をしているときに漂うかつおだしのにおいや、すり鉢でごまをする音などが、よく記憶に残っているんです」
そう語る伊藤まさこさんは両親と姉2人との5人家族。
外食をあまりしなかったため、食卓には母親がつくったさまざまな料理が並びました。おやつもたいていが手づくり。伊藤さんも餃子包みやお菓子づくりのお手伝いをよくしていたといいます。
「母の料理は味がはっきりしていておいしいんです。ステーキを焼くときも迷いがなく思いきりがいい。伊藤家の定番、ミートボール入りミートソースは、いまも食べたくなると頼んでつくってもらいます。私の娘も、“おばあちゃんの味”が大好きです」
お店で食べて気に入った料理や新聞の記事で見た料理をつくってみるなど、いまでも新しい味に興味を持ち、積極的に取り入れるという伊藤さんの母親。歳を重ねるにつれ、使う料理道具も少し変わってきているそうです。
「重い鍋はもう使いづらいといって私に譲ったし、以前はすり鉢でごまをすっていたのが、いまは少量しか使わなくなったので小さなパックのすりごまを買うように。
母は『こうでなければ』と昔のやり方にこだわらず、年齢や暮らしの変化に応じてスタイルを変えていくのが上手だなと思います」
料理や家事に小さな工夫をこらし、日々の生活のなかにささやかな楽しみを見つける。伊藤さんの目には、ずっとそんな母親の姿が写ってきました。
「庭仕事や掃除、食事の支度など、何をしていてもいつも楽しそうにしています。家族が喜んでくれるのが何より楽しみだったのかも。“毎日機嫌よく暮らす”ということが、私が母から一番受け継いでいることかもしれません」
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〈撮影/伊藤まさこ、山田耕司 取材・文/嶌 陽子〉
伊藤まさこ(いとう・まさこ)
料理や雑貨など暮らしまわりのスタイリストとして雑誌や書籍で活躍。ウェブサイト「ほぼ日」とともにオンラインショップ「weeksdays」を運営中。伊藤さんの著書に、母の料理と思い出について綴った『母のレシピノートから』(ちくま文庫)がある。現在、電子版も配信中。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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