• 読書の時間は暮らしの句読点。ひとりで本を読みながら過ごせる静かな喫茶店を、文筆家の川口葉子さんに教えてもらいました。今回は、東京・王子の「グライナリーズコーヒー」を紹介します。
    (『天然生活』2023年9月号掲載)

    川口葉子さんが案内する、ゆっくり読書ができる喫茶店

    居心地のいい喫茶店の片隅で本のページをめくる楽しみをおぼえたのは、学生時代のことでした。以来、時代が変わっても喫茶店での読書は常に私の生活の一部でありつづけ、それが暮らしにリズムをもたらしています。

    たとえ仕事や雑用で忙しい日でも、30分か1時間ほど喫茶店の椅子で本に集中することさえできれば、ゆったりしたリズムが取り戻せるのです。

    喫茶店は友人のように、喜びを2倍に、悲しみを半分にしてくれるもの。ある珈琲店主が、ご自身の青年時代の喫茶店通いについて語ってくれたことがあります。

    「日々がつらくても、その喫茶店に30分も座っていれば、なんとか生きていけるだろうと感じられました。ときどき冗談半分にいうんですが、喫茶店は信じる者にとって教会みたいな存在なんです」

    街の中にそんな場所がずっと存在していますようにと、願わずにはいられません。

    読書したいときの喫茶店選びのポイント

    ⚫︎ 静けさが保たれている
    ⚫︎ 文字が読める程よい明るさ
    ⚫︎ 店主が放っておいてくれる

    読書にふさわしい喫茶店としておすすめするお店は、店主が同種の経験をしています。

    かつて自分がお客のひとりとして喫茶店で読んだり書いたりする時間を大切にしていたからこそ、いま、お店に読みかけの本を携えてやって来る人々が何を求めているかをこまやかに想像できるのでしょう。

    東京・王子「グライナリーズコーヒー」

    古本と植物でいっぱいの2階は長居してもいい読書天国

    画像1: 古本と植物でいっぱいの2階は長居してもいい読書天国

    王子の古びた小さなビルにある「グライナリーズコーヒー」は、1階が注文カウンターと焙煎と古書販売のスペース、2階が客席になっており、階段に置かれた「店内はお静かに」という木札を観ながら2階に上がれば、何者にもじゃまされずに読書や書きものに没頭することができます。

    画像1: 古本と植物でいっぱいの読書天国。東京・王子「グライナリーズコーヒー」文筆家・川口葉子さんが案内する、ゆっくり読書ができる喫茶店
    画像2: 古本と植物でいっぱいの読書天国。東京・王子「グライナリーズコーヒー」文筆家・川口葉子さんが案内する、ゆっくり読書ができる喫茶店

    元は北千住の大きな古い穀物蔵で開業して人気を博していたが、建物の取り壊しにより2022年に王子に移転した。ゆるやかな空気感の魅力は変わらない。北千住時代から来店者にお願いしてきた「カメラのシャッター音はたてないでください」「おしゃべりの声は控えめに」などのマナーが、こちらでも自然に浸透しているという。

    画像2: 古本と植物でいっぱいの2階は長居してもいい読書天国

    「一人ひとりの時間をじゃましないようにしています。気兼ねなく長居してほしい」という店主の伊能さんは、「もともとお客さんと話をするのは好きじゃないので」と笑います。

    古道具を集めて陰影豊かにつくりあげた空間には、そのための工夫が凝らされていました。

    座った人同士の視線がぶつからないように席を配置したり、大小の書棚を仕切りにして各テーブルの独立感を高めたり。

    おかげでどこに座ってもすぐに自分の居場所だと感じられます。

    画像: 築50年以上のビルを店主の伊能さんみずから改修し、風情のある落ち着いた空間に仕上げた。鉄製の窓枠や天井に独特のレトロ感が漂っている

    築50年以上のビルを店主の伊能さんみずから改修し、風情のある落ち着いた空間に仕上げた。鉄製の窓枠や天井に独特のレトロ感が漂っている

    とくにおすすめしたいのが雨降りの日の風情。「雨の日こそ喫茶店日和」と、伊能さんも雨の日がお気に入りのよう。

    やさしい雨音に包まれて放心したり本のページに戻ったりしているうちに、心に余白が生まれてくるのです。

    好きな組み合わせ
    コーヒーとチーズケーキ

    画像: 好きな組み合わせ コーヒーとチーズケーキ

    眠気を払ってくれるコーヒーは読書の最良の友。この日はマンデリン500円を選んで、クリーミーなチーズケーキ450円とともに。昔ながらの喫茶店の味にこだわったカレーは、ハーフサイズも好評。

    グライナリーズコーヒー
    住所:東京都北区豊島1-7-6 メゾン王子Ⅱ102
    営業時間:12:00〜19:00(日・祝は〜18:00)
    定休日:土曜
    インスタグラム:@granaryscoffee_jp

    ※喫茶は1組2名まで



    <取材・文/川口葉子 撮影/林 紘輝>

    川口葉子(かわぐち・ようこ)
    ライター、喫茶写真撮影家、カフェイン中毒。約30年にわたり全国のカフェや喫茶店を訪れてきた経験をもとに、書籍やWebなどで記事を執筆中。著書に『東京の喫茶店~琥珀色のしずく77滴』(実業之日本社)、『東京古民家カフェ日和』(世界文化社)、『京都カフェ散歩~喫茶都市をめぐる』(祥伝社)ほか多数。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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