(『天然生活』2022年10月号掲載)
お米を通じて“土地の雰囲気や景色”を伝えていく
田んぼを見学したあと、作業場兼販売所、飲食スペースとして使っている「くど」へ。3人で昼食をこしらえました。
炊きたてのごはんをゆっくりかみしめる野村さん。
「ひと粒ひと粒のお米が立っていておいしい。お米が育った水と同じ水で炊かれたごはんを食べられるなんて、とても贅沢ですね」と目を細めます。
続けて、「一緒に過ごし、ふたりは米農家というよりも、表現者、つくり手というほうがしっくりくると感じました。おいしいお米をつくるのが目的ではなく、土地の声を聴いて、自然とつながったものを生み出しているのかなと」。
「そのとおりで、目的はおいしいお米をつくることじゃないんです。この土地のすっきりした雰囲気、景色そのものを前に出せればいいなと思っていて。ときどき、僕たちのことを知らない人から、『このごはんは透明感がありますね』といわれると、農家冥利に尽きます。土地をそのまま伝えることができてうれしいです」(裕治さん)
2021年から新たな取り組みとして始めたのが、「小さな農民の会」です。
年会費を払い会員になると、会員限定のオンラインショップで、蒜山耕藝の食品の購入が可能に。また、リアルタイムな田畑の様子や、高谷さんたちが畑から学んだことをまとめた動画も届きます。
「私たちのつくったものを求めてくださる方が増えるにつれて、ふたりでつくる量には限りがあり、すべての方に届けられないと実感するようになりました。そこで、人数を絞り、深いつきあいをしてくれる方が買い物できる仕組みをつくったんです」(絵里香さん)
小さな農民の会の感想を尋ねると、「やって本当によかったです。疲れていても、会員の人たちのためにがんばろうと力が湧いてきます」と裕治さん。
絵里香さんも、「皆が手を広げて待ってくれているみたい。何が届いても大丈夫だよといわれているようで、安心感があります」と笑います。
最後に一日を振り返った野村さん。「ふたりからたくさんエネルギーをもらいました。自分はお米をつくることはできないけれど、蒜山耕藝のお米を食べたり、活動をだれかに伝えたりすることで、ふたりに何かかしら返していきたいなと、改めて思いました」
〈撮影/今津聡子〉
野村友里(のむら・ゆり)
長年おもてなし教室を開いていた母の影響で料理の道へ。ケータリングやイベント、ラジオ、出版など幅広く活躍。2012年原宿に「restaurant eatrip」を、19年表参道に「eatrip soil」をオープン。EATRIP JOURNAL
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです