(別冊天然生活『暮らしを育てる台所』より)
おいしいごはんは、気持ちのいい台所があってこそ
高知県の山の上、谷相という小さな集落に、早川ユミさんのお宅はあります。
玄関を上がると20畳ほどの部屋が広がり、その奥に磨き上げられたステンレスの台所が。火力の強い大きなコンロと冷蔵庫、3つあるシンクは業務用とあって、プロの厨房さながら。
その立派な調理台を囲むように、古い机や簞笥、お手製の鍋つかみや、夫の哲平さんがつくる素朴で美しい器、自家製の梅酒や味噌の瓶など、早川さんの日常をかたどるものがしっくりなじみ、窓辺に吊るされた木のおたまやざるが、風に揺れています。
「家具も調理道具も、昔から愛着をもって使っているものばかり。コンロと冷蔵庫は、ここを建てるときに、自然食レストランから譲り受けたものです。業務用だから頑丈で、繰り返し修理しながらずっと使っています。おいしいごはんをつくるには、大事に使い込んできた、気持ちのいい台所があってこそ。そう思っています」
みんなで使うから、だれもがひと目でわかる収納に
早川さんと陶芸家の哲平さんは、ふたりの息子さん、そして、お弟子さんを抱える大所帯。
「みんなでつくって食べる」が台所のコンセプトだといいます。みんなで使うためのルールをひとつ、決めています。
「だれが台所を使ってもスムーズに料理できるように、よく使う鍋や調理道具、調味料は指定の場所に置くのが鉄則。簡単なことだけど、場所を決めておけば料理をしたあとも、さっと片づけられます」
お昼どき、ごはんをつくるために早川さんと3人のお弟子さんが台所に立ちました。大きな中華鍋を振ったり、器を用意したり、ごはんを盛りつけたり。それぞれが手際よく動きまわり、ランチが完成しました。
これまで何度もアジアの国々を旅してきた早川家にとって、定番というタイ料理。食卓代わりに床に広げたタイの布「パカマー」の上に、ごちそうが並びます。
「人数が多いので、いつもこうして食べています。台所は、私が旅してきた国の食文化を表現する場でもあるし、自分たちで手をかけてつくったものを食べるという、“暮らしの根源”を若い弟子たちに学んでもらう場でもあるんです」
〈撮影/河上展儀 取材・文/熊坂麻美〉
早川ユミ(はやかわ・ゆみ)
布作家。アジアの手紡ぎ、手織りの布で衣服をつくり、展覧会やワークショップを開催するほか、暮らしと食べ物にまつわる著書を多数執筆。近著に『種まきびとの絵日記はるなつあきふゆ 増補改訂版』(扶桑社)。