(別冊天然生活『暮らしを育てる台所』より)
薪ストーブを囲み、昔の道具がいまも活躍
南に向いて窓が開けるワイン家の台所には、イエルカさんが手がけた薪ストーブを囲むように調理場とダイニングテーブルが並びます。
古い囲炉裏も残してあり、夏は炭をおこしてバーベキューを楽しむことも。
家の外には夏用のオーブンとして使う小さな薪ストーブもあり、素朴ながら実に豊かなこの台所から料理人あけびさんが育ったのもうなずけます。

父イエルカ・ワインさんの薪ストーブを中心とした台所には、いつも多くの人が集い、笑い声が響く。窓の外にはサンルームがあり、夏は外で食事をとることも
古民家の台所に、料理人の知恵と動線を取り入れて
しかし最近、あけびさんが再びここで暮らし始めたことで、ワイン家の台所に静かな変化が起きているのだとか。
「レシピの試作など、仕事で台所を使うことも多いので、動線を考えて少しずつ配置を変え始めているんです」
調理台の上に置くものは必要最低限のものだけ。すぐに手が伸ばせるように、調味料の棚にかけてあった布も外しました。来客に備えてたくさんの食料が入っていた冷蔵庫の中も大改造。
「まずは目が届く範囲にだけ食材を置いて、全体量を把握することから。乳製品や肉、野菜とジャンルごとに分類して入れておくことで、すぐに取り出せるようにしました」

窓際にタオルかけを設置し、食器ふきと手ふきの定位置に。下の白い板はパイ生地などをこねる大理石のもの

こげつきを落とす金だわしに野菜を洗うたわし、猫のスポンジはその他全般。一度に多くを置かず、傷んできたらこまめに替えて清潔に

鍋類をガスレンジ下の引き出しに。ひとつあると意外と役立つのが小さなミルクパン。「ソースづくりや少量の温めなどに重宝します」

お気に入りの水屋簞笥を食品入れに。大きな保存容器を使って大正解。「これで虫がつく心配なし。ざっくり分類しているので取り出しやすいです」
自分だけの台所をもつならどんな空間に? そんな質問にあけびさんは少し考えて、こう答えました。
「明るく光が差して、天井が高く、空間がたっぷりある場所。やっぱりこの台所が私の理想の原点だと思います。両親は裕福ではありませんでしたが、日々の暮らしのなかで、美は楽しみではなく生活に欠かせないものだということを教えてくれました。自然や、風景や、風のにおいから感じるものも含めて美しいものをたくさん見せてもらったことはいま、私の料理のなかに確実に生きています」
〈撮影/佐々木健太 取材・文/玉木美企子〉
ワインあけび(わいん・あけび)
長野県出身。フランスとイタリアのレストランで働きながら、日本でケータリングや料理教室などの活動を開始。2020年に鎌倉にアトリエを構え、オンラインストア「Zoe」をオープン。