• 味覚はときに切ないほど、懐かしい記憶を呼び覚まします。口にすればいまでも、幼い日に戻れるような気がするのです。今回は、寺田本家の寺田聡美さんに、家族のみんなが大好物の「油揚げの甘辛煮」のつくり方を教わりました。
    (『天然生活』2023年9月号掲載)

    家業、子育て、台所仕事。母の工夫に思いをはせて

    創業から350年を迎える酒蔵、千葉県・香取郡の寺田本家。23代当主の次女として生まれた聡美さんは、家族のみならず、酒造りを担う蔵人たちにも囲まれ、にぎやかに食卓を囲んできました。

    「父も母も千葉県のこの辺りの生まれです。しょうゆの産地として知られる銚子が近いので、自然とわが家のおかずは、“茶色いもの”が多かったですね。とくに油揚げの煮ものは、甘辛味が大好きだった父のお気に入り。週に1度は、出てきたのではないでしょうか」

    現在も、聡美さんを含む三姉妹とその家族で食卓を囲むことは日常で、総勢13名。せっかくつくるなら、油揚げは豪気に10枚。調味料をむだなくしみ込ませるため、鍋にぎっしり敷き詰めます。

    「なんということはない料理ですが、私たち姉妹も小さいころから大好きで、母にとっては孫にあたる私たちの子どもも大好物。最近は子どもたちがどんどん食べてしまって、大人は2、3枚しか食べられないこともしょっちゅうです。私自身、見よう見まねでつくってみることもありますが、どうも、母の味にはならないのが不思議で」

    そこで今回あらためて、つくり方を教わった聡美さん。ポイントは、みりんの量でした。砂糖なしでもこっくり甘く、軽やかささえ感じさせる味。その味わいを担っていたのは、贅沢に使われたみりんだったのです。

    「油揚げの甘辛煮」のつくり方

    画像: 「油揚げの甘辛煮」のつくり方

    つい、もう1枚と箸が伸びてしまうのは、後味軽い甘さゆえ。鍋いっぱいに、たっぷりつくるのがおいしさの秘密。

    世代が変わった、と実感するおかずです

    子どものころは、欲しい分だけどんどん口に入れていた寺田さんですが、いまは子どもたちの勢いに押されがち。でもそれを、どこかうれしく思います。「きっと母も父もそうだったんだろうなあと。私たちが食べている姿を、こんなふうに眺めていたのだと思います」

    材料(つくりやすい分量)

    ● 油揚げ10枚
    ● 酒、しょうゆ各大さじ4
    ● みりん150mL

    つくり方

     油揚げは熱湯をかけて油抜きし、それぞれ4等分に切る。

     を鍋(直径25cm程度)のふちから中心に向かって立てながらぎっしりと詰める。ひたひたになる程度まで水(目安は1カップ弱)を加える。

    画像: 鍋にぎっしり立てて煮ると味が均一に。半量の場合は、鍋も小さめのものにする。残りは冷やし中華の具などに活用

    鍋にぎっしり立てて煮ると味が均一に。半量の場合は、鍋も小さめのものにする。残りは冷やし中華の具などに活用

     強火にかけ、沸いたら酒、みりん、しょうゆを順に加え、落としぶたをして中火で10分ほど煮る。途中、落としぶたを油揚げに押し付けながら、汁けを蒸発させつつしっかりと味を含ませる。

    *冷蔵庫で3~4日保存可能。
    *半量の油揚げ5枚でつくる場合は、調味料は各半量、水は1/2カップが目安。



    <料理/寺田聡美 撮影/山川修一 取材・文/福山雅美>

    画像: つくり方

    寺田聡美(てらだ・さとみ)
    延宝年間創業の「寺田本家」に生まれる。無農薬米、無添加、生酛造りの独自の自然酒醸造で知られる酒は、多くのファンをもつ。敷地内ではカフェも営業。この秋、発酵をテーマにしたレシピ本『寺田本家のおつまみ手帖』(家の光協会)を発売。https://www.teradahonke.co.jp/

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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