住まいの歴史を振り返り
わたしの住まいの歴史は、ワンルームからスタートしました。それから古い洋館の一室に住んだり、マンションに移ったり、一軒家の時もありました。賃貸の時もあれば、マンションを購入したこともあります。家を建てたことも。都市での暮らし、2拠点生活、地方移住。ふり返ると引っ越しの多い人生です。その都度その都度、その時の自分に合った場所、家を選んできました。
いまは、45㎡の部屋です。「せまいかもしれない」と思いながら移りましたが、住むと慣れますね。いまは「この広さが心地いい」と思っています。
広い住まいは、気持ちがいいですし、スペースに余裕があり、収納等、困ることはありません。それでも歳を重ねていくことを考えると、いまは、コンパクトな家にしてよかったと思っています。
小さな住まいの利点
コンパクトな住まいのよさは、掃除の時間が短くなることです。掃除はしようと思ったら、どこまででもできる作業です。だからこそ、日常的には効率よくすませたい。掃除の目的は、気持ちのいい空間ですごせようにすること。健やかさを育んでいくこと。ホテルのように髪の毛1本落ちていないは、目指さなくていいのです。日々、負担なくできる。それが理想です。
コンパクトな住まいは、それが可能です。気になっているけれど──と、後回しにしてなんとなく後ろめたくなることもほとんどありません。体調が優れなくてもさっとで十分な時もあります。
今日はいつもより念入りに、という日も、途中でつかれることもありません。掃除という分野に限らず、気持ちと体の負担を少なくしていくことは、これから大切になってきます。
もうひとついい点を挙げるとしたら、室温が一定に保ちやすいということ。空調もすぐに効きます。
いまの住まいの前は、広めの一軒家でした。冬の夜、帰宅すると、部屋があたたまるまで、コートを着たまま暖房器具の前にしばらくいました。夏は、光熱費がかなりかかりました。この部屋に移り住み光熱費が以前の半分以下になり、おどろいた記憶があります。
父の晩年の暮らしぶりから学んだこと
「コンパクトに」と思ったのは、父の施設暮らしを見た影響もあります。
父が、入居していた部屋は、1ルームでした。施設なので、キッチンとバスルームはなし。機能的なレストルームがついています。置いてあるのは、ベッド、椅子、タンスにチェスト。本当にコンパクト。
一軒家で暮らしていた父は、その広さに納得していないようでしたが、工夫すれば居心地のいいホテルの部屋のようになるのでは──とわたしは思っていました。広さに関係なく、快適で気持ちのいい空間にしていくことは可能です。コンパクト故の利点もあります。
意識のなかでは、住まいが狭くなることをネガティブに捉えてしまう傾向があるかもしれませんが、コンパクトな方がいい面もあるのです。自分と住まいの方向性が合えば、大丈夫。
コンパクトな住まいのよさを知ったいま、つぎの家があるとしたら、また、同じ広さがいいと考えています。あと10㎡あれば独立したベッドルームが持てますが、それも必要ないかな。窓からの風景がよければ35㎡でもいい思うようになってきました。
コンパクトでも、居心地よく、気に入ったものがある住まいであれば、暮らすこと、生きること、歳を重ねることそのものが愛おしく感じられるのではないでしょうか。
1 自分にとっての居心地のよさを考えてみる
2 住まいの優先順位を見直す
3 年齢とともに必要なもの不要なものを検討してみる
4 住まいに関し、負担がある点、無理をしているところを取り除いていく
5 自分に合う部屋にしていく
広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19