「ひとり」のラクさに目覚める
私はもうすぐ還暦を迎える予定の、現在58歳。オバサンぶりも仕上がってきた私、自分なりに精一杯毎日をエンジョイしてきたつもりです。
50代も、途中まではよかったのです。更年期症状もなくなったし、体力はあるしで、今のうちにやっておかなきゃ! とばかりに、毎日1000m泳いだり、富士山に3回登ったり、カヤックや自転車旅に挑戦したり。
しかし、60代もこの延長で楽しくやるぞ、と甘く見ていたところに来たのが、新型コロナの世界的流行でした。
タイの国旗が“心の押し入れ”から飛び出してきた
その頃はすっかり、内向き生活に浸りきっていました。それまで手を出さなかった洋裁を始めて、家で着る服を自作したり、人との交流はSNS、外に出るならひとりで河原を歩き回るという孤独な生活。でも全然楽しい。
このままダラダラ暮らすの、そんなにイヤじゃないかも。忙しく行動する気力はもうないし、昭和中期だったら55歳なんて定年。
残りの人生、もう消化試合でいいんじゃない? この年になって、そんなに頑張らなくても。次第にそんな考えが支配的になってきました。
しかし、こんな私ですが、まだやり残したことはあったのです。
それは、タイに行って料理研修(?)をすること。以前からタイ料理が大好きで、タイ料理仲間とあちこち食べ歩き、コロナ期間も、機会があれば出先のタイ料理屋でテイクアウトしていた私。
コロナ前までは、1カ月くらいタイに滞在して、タイ料理を研究するつもりでした。
(でも、今はコロナで動けない。1カ月も行くとしたら絶対ひとりだ。タイ語が話せないから料理を学ぶなんて無理。そもそも1カ月で学べるわけない。その間、家族のごはんはどうするの?)なんて自問しているうちに面倒くさくなり、「まあ、いつか、そのうちね......」と、心の押し入れに夢をしまいかけていました。
しかし、あることをきっかけに、タイの国旗が押し入れからバーン! と飛び出してきたのです。何の生産性もないプランだけど、やりたいと思ったことをやらずにこのまま歳をとっていったら、絶対後悔すると思う。
顔、覚えてないけど、父方のおばあちゃんは脳卒中で70歳で亡くなってるんだよね? 私いくつだ? 58? あと12年しかないし、足腰は年々弱るんだよ......。うん、やっぱり、出かけよう!
ひとり旅にはワケがある
宿泊・交通・食事と、様々なコストが割安になることから、本当ならふたりで行きたいところですが、今回タイに行くにあたって、最初からひとりで行こうと決めていました。
タイは人気の観光地なので、行きたい人は探せるかもしれませんが、まだまだ現役世代なので、10日以上日程の合う友達を探すのがほぼ不可能でしょう。
思えば、たまの出張を除けば、ひとり旅なんて独身のとき以来です。子連れ旅も、子供が成長してからの夫とのふたり旅も、それぞれ楽しいものでした。昔からの友人たちと旅するのは、また格別です。しかし、誰とどこに行っても、いつもちょっとだけ、満たされない思いがありました。
子供との旅はつねに子供中心。「旅」というより、「移動する家庭」です。もちろん、それなりに楽しいのですが。大人同士である夫や友人との旅なら、そんな心配は要りませんが、今度は、お互いの嗜好や体力がからんできます。
「私はずっと、ひとりで思いきり歩き回って、誰にも遠慮せず見たいものを見て、食べたいものが食べたかったの!」
家族のいる人、人に遠慮してしまうHSP気質の人なら(私、このタイプでした)、多かれ少なかれ、この気持ち、わかってもらえるんじゃないでしょうか。
人に合わせるあまり、自分のことはあと回し。自分がやりたいことより、相手が疲れないか、相手が楽しんでいるかを優先してしまう。
でも、今回は思う存分ワガママに行動するぞ! だってひとりだもん。
とはいえ、別にハードなバックパッカーだったわけでもないフツーのオバサン、今さら海外ひとり旅、できるかな?
旅の様子は『50歳からの心の整理旅 』(オレンジページ)金子由紀子(著)に収録されています
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暮らしの達人・金子さんがたどった「じぶん再発見の旅」
50代で心のすき間を自覚、紆余曲折を経て、還暦を目の前にした58歳でついに念願だったタイ料理プチ研修&川・市場探検を実行! 本書は、金子さんがたどった「じぶん再発見旅」の記録です。旅先での新たな食や人との出会い、思いがけないトラブルを通した心情が丁寧に綴られ、タイに興味がなくても、読み進めるうちに心のモヤモヤが晴れ元気が湧いてきます。タイのお国柄や乗りもの事情など旅の基本情報や地図なども紹介し、ガイドブック的な一面も。シンプルライフの達人ならではの「荷物を軽くするコツ」や、過去の失敗から得た「セキュリティ対策」も収録しています。
<著者/金子由紀子>
金子由紀子(かねこ・ゆきこ)
エッセイスト。総合情報サイトAll About「シンプルライフ」初代ガイド。 1965年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなり、幅広い分野で執筆を行う。10年に及ぶひとり暮らし経験と、主婦としての実体験をもとに「シンプルで心地よい暮らし」を軸とした生活術を提案。2006年『お部屋も心もすっきりする 持たない暮らし』(アスペクト)を上梓し、“持たない”ブームの先駆け的存在に。精神性と継続性を重視した、リアルな暮らしの知恵が共感を呼んでいる。 著書に『50代からやりたいこと、やめたこと』(青春出版社)、『クローゼットの引き算』(河出書房新社) 、『お金に頼らずかしこく生きる 買わない習慣』(アスペクト)、『夜家事でかつてないほど朝がラクになる』(PHP研究所)などがある。