(『天然生活』2023年3月号掲載)
禅式の掃除ルール 01
トイレや玄関に置くものは、必要最低限
汚れやすい場所にはなるべくものを置かず、サッと掃除ができる状態にしておくのが合理的。そのことが、「汚れる一方にしない」という心構えにもつながります。
普門寺のトイレはマットもスリッパもありません。スリッパがあると少々汚れてもいいと思ってしまうし、マットがあると汚れがごまかせるためです。
外からのほこりや砂が入り込みやすい玄関も、ものを置くとその下にごみがたまってしまいます。たたきに出す靴は最小限に。ときどきは雑巾で水ぶきをしてさっぱりさせましょう。
禅式の掃除ルール 02
使ったあとに「ついで掃除」をする
吉村さんは永平寺での修行時代、トイレを使ったら「自分が入ったときよりも、きれいにしてから出るように」と教えられました。
その習慣がいまも続き、自宅はもちろん外出先のトイレでも、サッとふいてから出てくるそうです。
体で覚えているから面倒でもないし、「次の人に気持ちよく使ってもらえたほうがハッピーですよね」と話します。
「『ついで』が習慣になると、わざわざ掃除の時間をつくらなくてすみますから、自宅でもいろいろな場所で『ついで掃除』を取り入れています」
禅式の掃除ルール 03
ごみや汚れは、その場できれいに
調理中に飛び散る油汚れは、放っておくと落ちにくくなります。汚れが一カ所のうちにその場でサッとふくのか、いくつもたまってからゴシゴシふくのか……。労力がかからないのは前者です。
「面倒くさい」という思考にとらわれず、パッと行動したほうが結果として楽。床に落ちているごみも、拾って捨てるのは数秒であり、そうすればごみはなくなります。
小さな汚れをふくことやごみを拾うことを通して「行動すれば終わる」を体感し、「面倒くさい」を手放していきましょう。
禅式の掃除ルール 04
部屋の掃除は10分だけと決める
掃除を習慣にするためには、何時から何時までと時間を決めて、それを超えないことがとても大切です。
たとえ終わっていなくても、続きは翌日やればよし。時間をオーバーし、結局「忙しいから毎日掃除はできない」となるほうがマイナスです。吉村さんは、自宅の掃除は「10分間だけ」と決めているとか。
慣れるまではタイマーをかけながら集中し、音が鳴ったらパッと切り上げましょう。場所を区切って今日はここ、明日はここと、部分的に進めるのが短時間で終わらせるコツです。
禅式の掃除ルール 05
玄関の靴をそろえる
吉村さんのもうひとつの専門である心理学に「割れ窓理論」という用語があります。
割れた窓ガラス1枚を放置すると「壊れてていい」との心理が働き、さらに窓ガラスが割られて秩序の乱れが広がるというもの。
家の中でも、自分や家族が「汚れてていい」と思ってしまわないように、「まずは一番目立つ場所をきれいにするといいんです」と吉村さん。
帰宅してすぐ目に入る玄関の靴をそろえる、家族の視線が集まるテレビ台の周りをきれいにするなどで、意識が変わっていくはずです。
禅式の掃除ルール 06
掃除にほうきを活用する
ごみをサッと掃けるほうきは、掃除機よりも手軽に掃除ができます。室内用には、体をかがめずに使える柄の長いタイプが楽。
ほうきを寝かせて掃くと細かいごみが取れないうえに、ほうきを傷めてしまうので、穂先で払うように掃くのが正しい型です。
フローリングの場合は、湿らせた新聞紙をちぎってまき、ほこりを絡め取りましょう。庭の落ち葉を掃くのは竹ぼうきが優秀。
一方、屋外でもコンクリートなどは庭ぼうきを使います。用途に適した道具を選ぶと、掃除がはかどります。
禅式の掃除ルール 07
雑巾がけをして、すみずみを点検
「いま、ここ」に意識を向けるのに、最も適した掃除は雑巾がけです。自分の手によってほこりや汚れをぬぐうという身体感覚が得られ、視線が低くなるため部屋の隅に残っているほこりにも気づけます。
「毎日は難しくても、ときどきは雑巾で水ぶきをしてみるとさっぱりしますよ」と吉村さん。
汚れを素早くしっかり落とすために、修行増たちは雑巾の上に両手を置き、体重をのせてふきます。できる範囲で取り入れてみましょう。
体に負担を感じる人はモップなどで水ぶきを。
禅式の掃除ルール 08
汚れをためないものを選ぶ
道具の多い台所では、簡単に汚れを除きやすいものを選ぶことが、スムーズな掃除の第一歩。
精進料理の教室を開いている普門寺の台所は、掃除のしやすさを考えて業務用のステンレス製を選びました。
ステンレスは、汚れをためると目立つ素材でもあるので、こまめにふこうという気持ちになれるのも大切なポイントだといいます。吉村さんはシンクも調理道具と見なし、調理前に洗っているそうです。
清潔であれば、食材が触れたり落ちたりしても気にならず、気持ちよく料理ができます。
禅式の掃除ルール 09
庭掃除は、区切って進める
グングン生える雑草、たくさんの落ち葉。庭や敷地の周りの掃除は「やってもやっても終わらない」ように思えますが、それも「とらわれ」です。
吉村さんが修行した永平寺は山の中にあり、ものすごい量の落ち葉でしたが「やり出せば終わる」ことを、身をもって知ったといいます。エリアを区切り、一カ所ずつ終わらせましょう。
落ち葉は風が吹くと散らばるので、ほうきで集めたらエリアごとにごみ袋へ。雑草は、普門寺では「根元に熱湯をかけて枯らす」方法で合理的に取り除いています。
禅式の掃除ルール 10
掃除がしやすい収納にする
物が置いてあると、いちいちどかして掃除をしなくてはいけません。そういった手間を省くために、普門寺の台所では吊るす収納を徹底し、調理の合間にサッと作業台をふける状態にしています。
「ときどきしか使わないものは表に出さず、戸棚などに収納し、必要なときだけ取り出します」と吉村さん。収納場所が足りない場合は、物を減らすことも検討を。
優先順位をつけるのが苦手な人は、絶対に必要なものをレベル10として点数をつけてみましょう。点数の低いものが減らす候補です。
禅式の掃除ルール 11
雑巾と浄巾を使い分ける
吉村さんが修行をしていた永平寺では、雑巾と浄巾を使い分けてふき掃除をしていたそうです。
床や地面に置かれているもの、窓の桟、戸棚などをふくのは、雑巾。仏壇まわりや食事の場をふくのは、浄巾です。
「浄巾は、清らかなものをふくための布。一般家庭でいえば、台ふきのようなものです。お寺では仏壇を清らかなものと考えているわけです。家庭でも、何を清らかなものとするのかを明確にする。そういった精神性を大切にすると、掃除への向き合い方が変わってくるかもしれません」
〈撮影/森本奈穂子 取材・文/石川理恵〉
吉村昇洋(よしむら・しょうよう)
曹洞宗(そうとうしゅう)八屋山普門寺の副住職。公認心理師、臨床心理士として精神病院のカウンセラーも務める。駒澤大学大学院で仏教学を、広島国際大学大学院で臨床心理を学び、曹洞宗大本山永平寺の修行を経て現職に。著書に『心とくらしが整う禅の教え』(オレンジページ)、『精進料理考』(春秋社)などがあり、仏教の教えや精進料理を伝えている。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです