(『天然生活』2023年11月号掲載)
都心の便利さを手放し、固定費をぐっと減らしました
人生のステージが変わった、と感じる瞬間はだれにもあり、イラストレーターの柿崎こうこさんにとってそれは、50歳目前、いまの家に引っ越してきたときでした。
都心からはちょっと離れた郊外、駅から徒歩15分・築30年超の集合住宅が新しいステージです。引っ越して3年が経ちますが、「ここに来てからいいことしかない」となんとも晴れやか。
50代目前に「老後」について考えるようになりました
「暮らしのダウンサイジング」というと、家を小さくしたり、持ち物を減らしたり、物理的な変化に注目しがちです。でも、柿崎さんが見直したのは、お金のこと。
「41歳のときに離婚して、その後再婚を考えた人が現れましたが、それも解消。45歳でひとり暮らしになり、50代を意識し始めたときに、将来どうなるの? ってもやもやと不安になったんです」
フリーランスのイラストレーターで独身という立場は、自由でもありつつ、寄る辺なさもあり……。
歳を重ねた先の仕事、健康、お金のことなどを考えたら、少し心細くなりました。そこから、「老後」を視野に入れて、備えなくてはと思い至ったのです。
「これからは本当に大切なものにお金をかけて、小さく身軽に暮らそう」
そんな気持ちの変化が起こり、「暮らし替え」を決めました。
それまで暮らしていた家は、都心の駅から徒歩30秒の便利エリア。築浅ピカピカで、ごみ出しをいつでもできるのもありがたかった。
「すごく便利だったし、そんな都会らしい生活を謳歌していたけれど、この便利さはすべて家賃に反映されているんだよな、とふと思ったんです」
前はその便利さが魅力で、「便利代」と引き換えに、自分の時間を得ていると思っていました。でも、50歳以降を見据えたときに、便利さは手放してもいいと思えたのだそう。都会にこだわらなくてもいいのかもしれない……。
「家賃や生活費全般のコストを抑えて、その分、将来に備えよう」
視野を広げて、住む場所を変えたらいいことずくめ
探す物件のエリアを広げました。猫を飼いたいと願っていたので、「ペット可」の条件は譲れません。
それから広さ。前の家は38平米で、仕事と暮らしをひとつの部屋でまかなっていました。でも、次のステージでは、仕事部屋もつくってオンオフにメリハリをつけたい。
都心じゃないのであれば、家賃を抑えつつ、もう少し広い家に住めそう。そうして、めぐり合ったのがいまの住まいです。一日を通して日当たりがよく、風通しも抜群。広さは63平米の3DK。もちろん、仕事部屋もあります。
「短時間で集中できるようになりました。体力も持続力も落ちてくる50代からは、効率的に仕事をしていかないと」
果たして、家賃は4万円下がり、広さは1.5倍に。そして念願の猫との暮らしもかないました。駅付近は店も人も多くにぎやかですが、自宅から奥に行くと、川が流れていたり、田んぼがあったり。「ほっとする景色」が身近にあります。
「少し遠いから訪ねてくる人は減るかな? と思っていたのですが、案外そんなこともなくて」
気の置けない仲間を招いてのごはん会が日常のいいアクセントに。気軽に人や場所とつながれる都心暮らしのときと比べて、人づきあいは小さく深くなりました。
時間には限りがあるから、本当に大切な人とじっくりと、そんな心境です。
<撮影/山川修一 取材・文/鈴木麻子>
柿崎こうこ(かきざき・こうこ)
1970年青森県生まれ。イラストレーターとして雑誌や書籍、広告媒体などで幅広く活躍。神奈川の築30年超の家で暮らす。猫シッターを経て、保護猫のしろとまるおの2匹を迎え入れる。人生後半戦に備え、暮らしを整える「小さな工夫」について綴ったエッセイ『50歳からの私らしい暮らし方』(エクスナレッジ)が好評。インスタグラム@kakizaki_koko
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです