(別冊天然生活『暮らしを育てる台所2』より)
愛猫とともにパリへと引っ越し。ここが私の新しい台所です
白とブルーグレーを基調にした自然光がやわらかく入るキッチンが、ミュージシャンで文筆家の猫沢エミさんのパリのキッチンです。
「私から見れば古くも新しくもありませんが、フランス人の彼は見た瞬間、『なつかしい』と。玄関を入るとすぐ右手にキッチン、奥にリビング、寝室というつくりは1960~70年代の近代建築に多く、郷愁を誘うようです。そういう部屋に私のような外国人が住んで楽しく暮らしているのは、面白いですよね」
移住して半年が経ちますが日本からの荷物は未着(取材時)。コロナ禍にウクライナ情勢も加わり、到着のめどは立っていません。パリは家具・家電付き賃貸住宅も多く、装備は最小限で、少しずつそろえています。
来客がない限りは、野菜を中心とした食事がメイン。フランスと日本の野菜は違うそうで……。
「味が濃くて野生味があって、食えるものなら食ってみろ、と挑んでくるんです。そんなフランスの野菜も、日本の水菜のように一瞬お湯にくぐらせて歯応えを残すような繊細な調理法が合う野菜も、どちらもすごく好きです」
鋼の包丁、燕三条製のキッチンばさみ、作家もののおろし器など、日本からの荷物の中には待ち遠しいキッチン道具が満載。とはいえ、いまの生活も楽しんでいる様子。
「いい山いもが手に入ったときは、すり鉢があればと思わなくもないですが、とろろじゃなく浅漬けをつくればいいと発想の転換で料理の幅も広がります。これがないとつくれないではなく、これしかないなかでどれだけのことができるか考えるのは面白いものですよ」
猫沢さんの日々の献立を支える、台所の扉の中身
上の棚①
奥の白い皿と手前左の白いカップは備え付け。持ち手が猫形のカップはフランスの人気ブランド「アスティエ・ド・ヴィラット」、黒いカップはスーパー「モノプリ」で購入。
上の棚②
右上はパリで購入したフランスの老舗メーカー「デバイヤー」の鉄製のフライパン。直径24、26cmで、どちらも重いがステーキがおいしく焼けてパスタやオムレツづくりにも。
食洗機
備え付けの食洗機が壊れ、大家さんに交換してもらった。
「東京では使っていませんでしたが、ホームパーティが多いパリでは非常に便利。手で洗うより、節水効果もあります」
カウンターの引き出し
カウンターの一番上は猫沢さん曰く「夢の引き出し」。シンプルなサブレやビスキュイなど好きなお菓子がいっぱい。
「執筆中に小腹が空くと台所に来て、こそこそ食べています」
調味料①
塩や砂糖、こしょうのほか、ドライハーブやミシュランの三つ星シェフ、オリヴィエ・ローランジェが手がける「エピス・ローランジェ」のヨーグルト用スパイスはフランスならでは。
調味料②
オリーブオイルやしょうゆ、ごま油、マスタードなど液体系の調味料。木いちごやりんごの酢、バルサミコ酢、黒酢など、酢だけでも数種類あり、料理によって使い分けている。
〈撮影/井上実香 取材・文/長谷川未緒〉
本記事は別冊天然生活『暮らしを育てる台所2』からの抜粋です
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猫沢エミ(ねこざわ・えみ)
ミュージシャン、文筆家、映画解説者、生活料理人。2002年に渡仏し、2007年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー『BONZOUR JAPON』の編集長を務める。超実践型フランス語教室「にゃんフラ」主宰。2022年2月から猫2匹を連れ、二度目の渡仏、現在はパリに暮らす。著書は、一度目のパリ在住記を綴った『パリ季記』(扶桑社)のほか、『猫と生きる。』(扶桑社)や『ねこしき』(TAC出版)、『猫沢家の一族』(集英社)など多数。料理絵本シリーズの第三弾、『コンフィチュールづくりは子どもの遊びです』が2024年9月に発売。