(『天然生活』2022年11月号掲載)
自分らしくすこやかに生きるための助けとなるように
食事や着るものと同じように、薬もナチュラルなものを選びたい
料理家の野村友里さんとの縁で、グロサリーショップ「イートリップ ソイル」に漢方相談所を構える漢方家がいます。
神奈川・大船で70年以上続く漢方薬局「杉本薬局」の三代目・杉本格朗さん。幼いころから漢方薬が身近にあり、西洋医学の薬とは距離を置いた暮らしをしてきました。
たとえば風邪をひいたら、漢方薬を飲み、とにかくじっと寝て養生。保健室や病院に駆け込む友だちが当時はうらやましかったと振り返ります。そんな「漢方サラブレッド」が常々思っていることがあります。
「食事は無添加、無農薬を心がけ、着るものは天然素材と、暮らしのなかでナチュラルなものへの意識が高まっています。同じように、薬もできるだけナチュラルなものを飲みたくないですか?」
頭痛や生理痛のときは鎮痛剤を、風邪だ、アレルギーだというときには病院で処方された薬をとりあえず服用……。現代社会では、いたって普通の行為ともいえましょう。杉本さんもケミカルな薬を否定してはいません。
でも、「症状」という体からのシグナルに向き合い、根本を理解しないうちに、薬でないことにしてしまうのには「ちょっと待った」なのです。
「頭痛も生理痛も『みんな悩んでいるし普通のこと』となっている。でも、本来はつらいことが当たり前ではないんです。そんな理想の状態にするには? と自分の体の状態を見直し、ケアするプロセスを考えてみませんか?」
陰陽のバランスがとれた状態に体を整えるための「漢方薬」
漢方の理想は、陰と陽のバランスがとれている状態です。陰と陽とは、東洋医学を支える核。自然界の事象は「陰」と「陽」に分けられ、バランスをとっているという考え方です。
体の中では、「陰」は潤す力、「陽」は温める力をいいます。このバランスがくずれると、不調につながるのです。
「陰と陽のバランスは常にイーブンでいたい。体をクールダウンできないと、陽の力が強くなりすぎてほてる。逆に、温めるエネルギーが足りないと陰に傾き冷えます」
足りないもの、多すぎるものを調整し、陰陽の調和がとれた体に導くためのツールが漢方薬というわけです。杉本さんは、薬局を訪れたお客さんにいくつもの質問を投げかけ、その人の体の状態、陰陽のバランスを探り当てます。
「症状はいつからで、きっかけは何か、睡眠や食事のこと、冷えているか、便は出ているかなどいろいろ伺います。その結果、たとえばその方は、冷えていて、便が出ていなくて睡眠も十分でない、お風呂も入れてないとわかる。だったら、まずは湯船にゆっくりつかりましょうとアドバイスし、体を温める漢方薬と便通がよくなる漢方薬を配合し、処方するのです」
目指すのは健体康心、すこやかな体と心です
漢方薬のいいところは、自宅でもじっくりケアができるところ。
「カウンセリングの時間も大事ですが、自宅に戻ってから、次に薬局に来る日までの過ごし方も大事です。その間も毎日漢方薬を飲むことで、治療も進みますし、心身と向き合う時間ができます」
そして、ずっと飲みつづけても大丈夫。杉本さん自身も、漢方薬を飲むのは日課。朝起きて疲れが残っていたら、滋養強壮効果のある漢方薬を飲み、食べすぎたと思ったら、胃腸の負担を軽減するものを。漢方薬は生活とともにあり、日々起きる小さな不調の穴を補修しつづけているのです。
「漢方って長く飲まなくてはいけないイメージですよね。服用期間の目安は、不調を感じている期間に比例することが多いです。数日前から始まった不調なら服用も短期間で済むことが多い。ただ長く悩んでいる不調には、腰を据えて服用したいですね」
じっくり取り組み、不調の根っこを取り除く。これこそが、漢方薬の目指すところ。たとえば頭痛。
「どうしても早く痛みをとりたいから鎮痛剤を飲みがちですが、根本の解決には至らない。痛みの原因は冷えなのか、疲労なのか、湿気なのか、根っこを突き止めなくてはいけません。
そして、頭痛が出ない体に整えることを目指したいのです。痛みがひどかったら鎮痛剤も飲んでいいですが、漢方薬と併用で、服用回数を減らしていき、最終的にナシでも大丈夫にしたい。そんな相談を気軽にできる漢方薬局やクリニックを見つけていただくと安心です」
不調に目をつぶらず、健康な心身を保つことを目標に。そのために、漢方薬はもってこい。
さまざまな種類を用意し、「お茶を飲むように」暮らしに取り入れていけたら心強いもの。
たとえば「冷え」でも、どんなふうに冷え、どういう不調を引き起こしているのか、体を観察し、漢方薬をお役立てください。
〈撮影/近藤沙菜 イラスト/須山奈津希 構成・文/鈴木麻子〉
杉本薬局(すぎもとやっきょく)
1950年の創業以来、一人ひとりの体質に合った漢方薬や自然薬を提案。三代目の杉本格朗さんと弟の哲朗さんらと家族で経営。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです