(『天然生活』2021年3月号掲載)
修理しながら長く使えるシンプルなつくりのものを
日々使い込むほどに、道具にはどうしてもガタがくるもの。愛情をもって、ていねいに扱っていても、やはり、日常で使う品々は、いつまでもまっさらに美しいままとはいかないのです。
「もちろん、いつまでも新品の美しさを保っていたいわけではないんです。年季が入った様子は、むしろ素敵なものです。ただ、気に入って手に入れた道具は、少しでも長く、手をかけながら気持ちよく使いたい。だから、直しながら使いつづけられるものかどうかをまず考えます。そして、自分でケアしながら使っていけるかも大切なポイントです」
行平型の銅鍋は、持ち手を取り替えればずっと使いつづけられます。シンプルなつくりなので、ゆるめばドライバーを使い、自分で簡単に締め直せます。
漆の器は、たとえ漆が剥げても、少々欠けてしまっても、修理を施せばまた違う表情に生まれ変わります。“自分の手に負えるものを”と選んでいけば、日々の道具は、飾り気のないものが多くなりました。
「ものへの接し方は、小さなころから一緒に暮らしていた祖母の影響が大きいと思います。だしをとったあとの昆布も料理していただく、着古したTシャツも、そのまま手放すのではなく、小さく切って掃除に使う、など最後の最後まで使い切ることが、昔から当たり前に身についていました」
意外にも、そんな古い日本の“もったいない”の精神に再び出合えたのは、2017年から3年間を過ごしたドイツでした。
「自分と同じ感覚で暮らす人々に、出会えた気持ち。新しい何かを手に入れるより、気に入ったものを手入れして使うことをよしとする。古いものをがまんして使うわけではなく、愛着をもって手元におく。環境のため、と肩に力を入れるでもなく、その感覚が当たり前に受け入れられる社会は、私には実に暮らしやすい場所でした」
小川糸さんの愛用品
エフスタイルの銅の行平鍋/スズ引き
持ち手は、エフスタイル の地元・新潟の間伐材。木目の出方など、ひとつひとつ表情が違うのが楽しい。
「一度修理に出したら、外側の磨きとともに内側の錫引きもしてくださり、新品かと見紛うほど美しくなって戻ってきました」
はじめに大中小を1セット購入。使い勝手のよさに感心して、さらにもう1セット。
「たいていの料理はこれで事足ります」
ソネングラスのソーラーライト
南アフリカでフェアトレードによりつくられるソーラーランタン。
「日中に太陽光で蓄電し、夜になると灯りをつけます。中にドライフラワーなどを入れて使っていますね。持ち運びできるので、来客時に玄関に置いたりしています」
漆の器
かれこれ20年以上使っている大ぶりの漆器。ふちの部分が剥げてきたので、塗り直しを。
「色や質感など、できるだけ元のものとそろえてと考えていますが、刷毛目の表れ方など、微妙に表情を変えて戻ってくるのが興味深いです」
l'île d'eau マクラメ編みのどんぐりのネックレス
「素材は主に、彼女が森で見つけてきた木の実を使っています。細工を施しすぎず、自然の植物がもつそのもののかわいらしさを生かしたデザインが素敵です」
ベルリン在住の友人・水島なつこさんによるアクセサリーブランド。
古本のアート
ベルリン在住中に見つけたアート作品。
「読まなくなった本が、オブジェという違う形で生まれ変わるという発想がいいですよね。現地では、それぞれが愛着のある古本を持ち寄ってつくるワークショップもありました」
<撮影/公文美和 取材・文/福山雅美>
小川 糸(おがわ・いと)
1973年生まれ。2008年『食堂かたつむり』でデビュー。映画化もされ、話題となる。以降、多くの作品が海外でも出版されている。著書に『とわの庭』(新潮社)や『小川糸さんの春夏秋冬を味わうシンプルな暮らし』(扶桑社ムック)など。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです