スタッフに伝えきれなかったこと
楽しい旅から帰ってきたら、スーツケースをあけて洗濯物を出して、荷物をしまう。たまったメールを返信して、仕事をひとつずつ片付けて。ああ、増えた体重をどうにかしなくちゃ。日常ってそういうもの。
移住のお話というと、とかく大きな、派手なことばかりに目が行きますが、当然わたしの日常も地味なことの積み重ねでできています。
直観を大事にしないとあたらしいことをはじめられない。そんなふうにはじまった生活の裏で、スタッフはいつも説明を求めていました。
わたしはいちばん大事なことは誰にも相談せずに決めてしまいがちです。
うまくいかなかったときに誰のせいにもしたくないし、集中しないと浮かび上がってこないものもある。何より、頭よりからだが正解を知っている、そう思うから、こんなとき、言葉がついてくるのはずっとあとになるのです。
それでも随時伝えてきたつもりでしたが、うちで働いていてくれている彼女たちは、皆繊細で、先回りをして準備するタイプの人ばかり。
そもそも最初から移住を、と考えていたこと。飲食をやめてから、今の場所に違和感を感じて久しかったこと。素材の入手に苦戦するようになってきたこと。経営のこと。全然伝えきれていなかったのだと思います。
わたしたちのブランド、「あたらしい日常料理 ふじわら」のお客様はリピーターが多く、取引先は関東が中心。なので、 できれば2拠点にしたい。もし続けてくれるなら、お店はスタッフに任せたい。
これは移住の地が北海道となったときに最初に考えたことで、既に製造と発送は多くをスタッフに委ねていたので、一度はやってみようとなったのですが、結論としては難しかった。
製造はいったん北海道に持っていく。時間をかけて、委託できる人か会社を探していこう、という作戦で進めることにしました。
チームで働くということ
誰かと何かを共有するのは難しい。立場が違うならなおさらです。
気持ちがすれ違っていく多くは、日々の小さなこと。その時もスタッフとの話し合いのなかで、こんなに理解しあえていなかったんだな、と思ったことがたくさんありました。熟年離婚を言い渡されるお父さんの気持ちってこんな感じなのかな、そんなふうに思ったり。
チームってつくづく、とても繊細なバランスで成り立っているものです。
安定したと思ったら誰かが抜けて、ずっと同じでは決していられない。特に、女性が多いチームは刻々と変化していきます。加えて、世の中がものすごいスピードで変わっている。
それでも、気持ちを寄せてくれるメンバーに恵まれて続けてこられたこと。それがギフトだったのかな、今はそう思っています。
チームで働くことは、私にとって苦しいことも多かった。でもきっといつか、それを懐かしく思うんだろうな。そんなふうにも思います。
思い通りに行かないことこそ、生きているから得られることで、うまくいかないことが人生を深めてくれるのかもしれません。
* * *
それから1年後、思わぬ形でふじわらの製造拠点は関東に置くことに。
自分は一人で生きていくのかな。葛藤はあらかた終えて、けっこう楽しくやっていける自信もあった。そんなところで、思いがけぬ出会いがありました。
藤原 奈緒(ふじわら・なお)
料理家、エッセイスト。“料理は自分の手で自分を幸せにできるツール”という考えのもと、商品開発やディレクション、レシピ提案、教室などを手がける。「あたらしい日常料理 ふじわら」主宰。考案したびん詰め調味料が話題となり、さまざまな媒体で紹介される。共著に「機嫌よくいられる台所」(家の光協会)がある。
インスタグラム:@nichijyoryori_fujiwara
webサイト:https://nichijyoryori.com/
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