• たとえば、自分の食べるものをひとつでも育ててみる。楽しみながら土に触れ、台所に立ち、生きものを慈しむ。ささやかでも、そこから得られる喜びは計り知れません。今回は、農家の渡辺沙羅さんが実践している小さな自給自足を伺いました。
    (『天然生活』2023年12月号掲載)

    好奇心の赴くまま、面白がって楽しんで

    山梨県北杜市、八ヶ岳南麓と呼ばれるこの場所に、渡辺さんが両親、祖父母とともに移り住んだのは4歳のころ。自給自足の夢を抱き、好奇心いっぱいに暮らしを楽しむ一家のひとり娘として、この土地で幼いころを過ごしました。

    「中高時代は寮生活で離れましたが、結局は、自然とここに戻ってきていましたね」

    高校卒業後、フィリピン、インドへ。多くの出会いを得て、何をやりたいかを自身に問い直したとき、ここに戻ってくるという選択が一番腑に落ちました。現在は、昔ながらのやり方で作物を育てる、名付けて“虫草農法”による農園を切り盛りしています。

    忙しくとも穏やかな自然に密着した暮らし

    「わが家では、移住以来ずっと、“つくれるものは、自分たちで工夫する”を実践してきました。食べたいものを畑で育てて料理をし、車は太陽光で動かします。自給自足というと、我慢を強いられるイメージをもたれるかもしれませんが、そもそも両親が、『暮らしをもっと楽しみたい』という視点からスタートしているので、ちょっとしたアクシデントなどは、むしろ試行錯誤をしながら、面白がって暮らしているんです」

    手を動かし、工夫を凝らす生活。それは同時に、お金のかからない暮らしでもある、と渡辺さん。

    多くのお金を稼ぐ必要がなければ、気の進まないことをノルマ的にやる必要もなく、暮らしはおのずと、楽しい方へと回り出すのです。

    渡辺家の「虫草農園」は、収穫量も増え、近隣の道の駅やネットでの販売も好評。

    こぼれ種から芽吹く野菜、たった1日で、確実に色づいていく果実。その生命力を目の当たりにする毎日は、忙しくとも、穏やかです。

    「いまやりたいのは、かごづくりと木工。畑や田んぼの世話に追われつつも、ここでの暮らしは次々と、やりたいことがあふれ出てくるんですよ

    渡辺さんの自給自足
    小麦

    画像: 渡辺さんの自給自足 小麦
    画像: 冬は薪ストーブを使ってパンを焼く

    冬は薪ストーブを使ってパンを焼く

    画像: 脱穀後の玄麦。唐箕(とうみ)を使って芒(のぎ)などを取り除き、その後、天日干ししてから製粉したフスマ入りの粉が全粒粉

    脱穀後の玄麦。唐箕(とうみ)を使って芒(のぎ)などを取り除き、その後、天日干ししてから製粉したフスマ入りの粉が全粒粉

    自家栽培した小麦とライ麦を使って焼くカンパーニュ。小麦はこゆき小麦、ゆきちからなどさまざまな品種を育てています。無農薬で育てた小麦は、全粒粉にしても安心。

    「パンを焼くのは、主に母。酵母は3日おきに手入れをして種をついでいるサワー種です。ぎっしりと重みのある、ドイツ風のライ麦パンもおいしいんですよ」

    渡辺さんの自給自足
    電気

    画像: 発電した電気は中古の電気自動車に順番に充電して使用

    発電した電気は中古の電気自動車に順番に充電して使用

    画像: ソーラーパネルは、車庫の上に。軽トラの上にも2枚装備して、むだなく電気を生み出す

    ソーラーパネルは、車庫の上に。軽トラの上にも2枚装備して、むだなく電気を生み出す

    沙羅さんは太陽光充電システムをつくるために苦手な電気の勉強をして、電気工事士の免許を取得。

    いまでは中古のソーラーパネルを使って中古の電気自動車に充電して使うことで、公共交通機関のない田舎暮らしですが、渡辺家の自動車の燃料代はほぼゼロ円。

    雨が続かなければ、太陽光発電だけで充電できているとのこと。



    <撮影/近藤沙菜 取材・文/福山雅美>

    渡辺沙羅(わたなべ・さら)
    4歳のころ山梨県北杜市に移住。高校(自由の森学園)を卒業した2011年ごろ「自分で食べるものを自分でつくる」「自分で使うエネルギーは自分でつくる」を意識するように。 https://musikusa.stores.jp/

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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