(『天然生活』2021年3月号掲載)
アイスブレーカーの取り組み
自然にも動物にも人にもやさしく
「地球環境や動物、そして人間に配慮したウールづくりに早くから取り組んだのが、ニュージーランドのアウトドアウェアブランド、アイスブレーカーです」
そう話すのは日本での事業運営者、幸村大悟さんです。
アイスブレーカーは1995年創業。当時、化学繊維がアウトドアウェア業界を席巻していたなか、メリノ種という羊の毛を用いたメリノウールにいち早く着目しました。
「メリノウールは通気性や保温性、吸放湿性に優れ、肌にやさしいのが特徴。なによりウールは生分解性、つまり土に還るので環境に負荷をかけないのです」
アイスブレーカーは既成の生地を買い取るのではなく、ニュージーランド各地に点在している牧場と直接契約。原毛の段階から製品づくりに携わっています。
「彼らと直接やり取りしながら、環境に負荷をかけていないか、羊が健やかに育っているかを定期的にチェックしています。病気予防のため、羊の臀部の皮膚を切り取るミュールジングという一般的な処置を、2008年にアウトドア業界で初めて禁止したのも同社です」
紡績、縫製など、その後の工程においても化学薬品の使用を抑える、排水の処理を行うなどの取り組みが。さらには生活賃金の保証、労働環境の整備など、働く人々への配慮も欠かしません。
「持続可能とは、環境のことだけでなく、人々も快適に長く働けるということ。こうした取り組みすべてが合わさり、結果的に品質の高い製品が生まれるのです」
人と自然との距離が近いニュージーランド。アイスブレーカーの取り組みの背景には、そんな土壌があると幸村さんはいいます。
「創業者のジェレミー・ムーンは『自然にはむだなものがない』といっています。自然の恵みを活用したいからこそ、搾取するのではなく、共生する道を選ぶのです」
現在はメリノウールの機能を高めるなどの目的で、15%ほどナイロンなどの化学繊維を使っています。
次なる目標はそれをゼロにすること。アイスブレーカーの挑戦は今後も続きます。
サスティナブルなウールとは......
◾️自然牧草での飼育
羊たちはケミカルフリー、もしくは極力抑えた自然牧草を食べて育ちます。遺伝子組換えの飼料を与えることはしません。
◾️化学物質の使用を極力控える
農薬不使用、もしくは極力抑えるほか、寄生虫予防のための殺虫剤をなるべく使わない、環境洗剤による原毛洗浄などの取り組みをしています。
◾️動物愛護(アニマルウェルフェア)
広々とした土地での放牧、寒さ暑さの対策、病気や怪我を防ぐための確認など、羊がストレスなく健やかに育つよう、さまざまな配慮がされています。
◾️ミュールジングの禁止
ミュールジングとは羊の病気予防のためウジが発生しやすい臀部の皮膚を切り取ること。ニュージーランドは2018年に国として禁止。この処置の代わりに虫の寄生を防ぐ管理・治療法を導入しています。
<取材・文/嶌 陽子 イラスト/みやしたゆみ 写真提供/アイスブレーカー>
幸村大悟(ゆきむら・だいご)
大学卒業後、スポーツアパレルメーカーのゴールドウィンに入社。1999年からアウトドア事業に携わり、2014年からアイスブレーカーの事業運営を行う。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです