(『天然生活』2021年3月号掲載)
クリッパンの取り組み
老舗が信じ抜く、天然繊維の力

ニュージーランドのバンクス半島の牧場。農薬不使用の牧草で育ち、ミュールジングされていない羊の毛が、スウェーデンのクリッパン社の製品に
スウェーデン南部にあるクリッパン社は今年で創業142年。もともとはウール紡績工場でした。
1982年に4代目社長に就任したヨスタ・マグヌッソンさんは、スウェーデンの暮らしから姿を消しつつあったブランケットを復活させようと、テキスタイルメーカーへの転換を決断。

右からクリッパン社の4代目社長、現会長のヨスタ・マグヌッソンさん、現在の5代目社長ベッテル・マグヌッソンさん、副社長のバニラ・ルールさん
現在は「天然素材、サスティナビリティ、アニマルウェルフェア(動物愛護)」をポリシーに、デザインと品質を兼ね備えたウールなどの天然繊維製品を製造しています。
日本のクリッパン総輸入元・イーオクトの代表、高橋百合子さんは話します。
「高品質な製品をつくれるのは蓄積されたウールに関する知識と技術が卓越しているから。原毛から最終製品まで、すべて自社工場で手がける希少なメーカーです」

羊の原毛をほぐすカーディングという工程。小さなごみも取り除かれ、繊維の方向がそろうことでフワフワ状態になり、次の「製糸」の工程に入る
そんなクリッパン社が15年前に出合い、惚れ込んだのがニュージーランドのバンクス半島の牧羊農家グループでした。
自然牧草で羊を育て、寄生虫予防のための殺虫剤は使わず、ミュールジングを行わない。

ラトビアにあるクリッパンの自社工場では、ニュージーランドから届いた原毛をまず洗浄する。環境に負荷を与える洗剤や漂白剤は使用しない
健康に育てられた羊の原毛で製品をつくり、2008年に「エコウール」と名づけて販売しました。
「羊たちは冬の間寒くないよう、また体に負担がかからないよう藁がたっぷり敷かれた小屋で飼育されています。製品の検品の際、たまに藁屑を発見することも」

エコウールはどの牧羊農家の原毛が使われているかたどることが可能。牧場があるニュージーランドでもクリッパンのブランケットは販売されている
生産エネルギーの削減などの新しい挑戦を続けつつ、変わらない軸となっているのは、ウールという天然繊維への信頼です。

検品時、手作業で糸のほつれを直す女性。工場では紡績から織りまで大きな機械で行われるが、最終工程では手作業でラベルの縫製や検品を行う
「質のよさはもちろん、土に還ること、持続可能なことが彼らにとって大事なこと。エコウールの採用も自然への敬意と愛情から生まれたものといえるでしょう」
現在、世界中の全繊維のうち天然繊維は28%。そのうちウールは2%以下、さらにサスティナブルといえるウールはそのうちのわずか1%ほど。もっとその存在を広めたいと高橋さんはいいます。

専用の織機でブランケットを織り上げている。100年を超える紡績企業の経験があるからこそ、紡績から製品づくりまで一貫して自社で行うことができる
「買い物をする際、自然環境や動物、生産者が健やかでいられるかどうかに思いを馳せてみる。ひとりひとりが小さな行動を起こせば、未来は変えられるはずです」
<取材・文/嶌 陽子 写真提供/クリッパン>

高橋百合子(たかはし・ゆりこ)
イーオクト代表取締役。新聞社勤務を経て1987年に会社を設立。ひとりひとりの暮らしから快適なサスティナブル社会をつくることを目指し事業を展開。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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