(『天然生活』2023年12月掲載)
長野の自然が教えてくれためぐる日々の喜び
2017年、東京から拠点を移し、八ヶ岳山麓で暮らし始めたひがしちかさん。この場所で日々を重ねるうち、気づけば「自然とともに生きるには?」との思いが深まっていきました。
引っ越してすぐ、コンポストを試してみたけれど、寒さで凍ってしまい断念。そこで思いついたのは、にわとりとの暮らしです。
「これが、とても素晴らしくて。生ごみも生かすことができるし、プリンが大好きな子どもたちのために新鮮な卵も得られます。数が増えてからは、敵から身を守ったり、集団で子育てをしたりと、いのちの本能と社会についてメッセージを受け取ることも増えました」
寒さ厳しい冬を過ごすうち、身体の「めぐり」も意識するように。サウナを手づくりしたり、家でよもぎ蒸しの会を開いたりと、ピンときたことはまず行動し、体感して、自分に合うものをひとつずつたぐりよせてきました。
そんなすべての試みに共通するのは、「あるものを生かす」こと。
「『コシラエル』を閉業したことで一層『いかにつくらずに表現できるか』の探求に意識が向いています。そのために、いまはぼーっとする時間も大事にしたい。急がず、目の前にあるものにやわらかに向き合うことで、時も思いも心地よくめぐっていく気がしています」
01_循環する暮らし
生ごみがエサになるにわとりとの暮らし
ひがしさんに「循環ということを身をもって伝えてくれている」のが、にわとりたちの存在。
「生ごみはエサになり、卵を産んでくれて、お祝いの日にはお肉もいただきます。卵は、画材に使うこともできます。にわとりがいるだけで、循環のサイクルが生まれ、あらゆるものがむだなくめぐっていく。いまもその存在に学んでいます」
02_循環する暮らし
庭のサウナで冬もめぐりよく
標高1,180メートルの高地の冬は厳しく、身体もこわばってしまいがち。
「意識的に汗をかく機会をつくれたらと、友人の力を借りてサウナを庭に建てました」
しっかりと温まったあとは、庭に流れる小さな滝に打たれたり、雪の上に寝転ぶのが至福の時。
「友人が遊びに来た際、みんなでわいわい入るのも楽しみです」
03_循環する暮らし
作品やアトリエづくりも「ある」を生かして
下水のない山中に移り住んだことで、「この絵の具はどこに流れていくんだろう」と、創作と環境との関係を意識したというひがしさん。
以来、自然を生かす画材の探求を続けています。完成したばかりのアトリエも、大半が廃材でつくられたもの。
「いまとくに、なにを描くかの前にどんなエネルギーを用いるかに関心が向いています」
知恵も道具も仲間と循環させる日々の楽しみ
アンテナを高く張り、有言実行。そんなひがしさんの周りには、よき循環の輪が生まれています。
茶道をきっかけにめぐってきた着物
今年4月から習い始めた茶道。
「ずっと興味はあったけれど、取り組んでみたらやっぱり奥深くて」
これを機に、一日一度は着物に袖を通す日々となったことを知人に話すと、今度はお母さまの着物を譲り受けることに。
「何代も受け継ぐことを前提につくられている着物文化は偉大。もっと着て暮らしたいです」
地域の友に学んだよもぎ蒸しの知恵
山梨県を中心に活動する鍼灸ユニット「モクシーズ」との出会いは4年ほど前。
よもぎを煮出し、蒸気を浴びて薬効を得る「よもぎ蒸し」の心地よさにめざめ、自宅で簡単にできるよもぎ蒸しグッズの絵柄を制作しました。
「『人の体も土と同じ、よどみを流すことで養われていくのでは』と気づかされた出会いでした」
<撮影/佐々木健太 取材・文/玉木美企子>
ひがし・ちか
1981年長崎県生まれ。2010年に一点ものの日傘屋「Coci la elle (コシラエル)」を立ち上げ、2022年夏に閉業。現在は画業を軸に、アトリエでのデッサン会や、平和を願うプロジェクト「とき を きく」(インスタグラム@toki_o_kiku)を始動させるなど、さまざまな活動を試みている。https://chikahigashi.com/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです