(『天然生活』2024年2月号掲載)
義理の両親、両親、夫を看取って思うこと
家族のだれかしらを介護すること、延べ20年。「最初に倒れたのは義父でした」と、遠い日々を思い返す横尾光子さん。
義母と義父を看取った横尾さんが、東京・吉祥寺に「お茶とお菓子 横尾」を開いたのは、ひとつにはだれかにホッとしてほしい気持ちがあったから。
介護中の自分がひとりでお茶する時間に救われていたように、「女性がひとりでも立ち寄れる店」を目指してオープンしたのです。
もうひとつ、カフェをやろうと決めた理由に、実の父の存在があります。
「コーヒーが大好きだった父が、私が子どものころ、しょっちゅう喫茶店に連れていってくれたんです。父のことも、介護をして看取りましたが、元気なときに私に『喫茶店でもやるか?』といってたことが、頭に残っていて」
横尾さんのこれまでの人生のかけらを集めたような路地裏のカフェは、遠くからも人が訪れてくれるような繁盛店に。しかし、今度は夫が病に倒れ、60代の若さで帰らぬ人となってしまいました。
「あの人には何もしてあげられなかったですね。でも、倒れて3週間でしたから、仕方なかったのかなと思います」
その後は、実の母が認知症に。義理の両親、自分の両親、夫を看取ってきたことを「さまざまな病とその最期を見てきたおかげで、自分が死ぬことは怖くなくなりました。それは介護をして、よかったことかも」と受け止めています。
現在、75歳。元気に暮らしている横尾さんですが、先日、股関節の手術で入院を経験しました。
「入院中は体がどんどん動かなくなるから、こうして何もできなくなるのかなあ......と考えたりして、また、カフェを開くことに決めたんです。今回の入院中は、一緒に暮らしている次女がとても頼りになったことも、新しい経験でした。支えられるのって気持ちいいんですね。両親たちもそう感じてくれていたならば、介護をしてきてよかったなあと思います」
幸せへの道のり
20代
銀行員として働いたのち、結婚。
第一子(長女)を出産。専業主婦に。
第二子(長男)出産。
30代
第三子(次女)出産。
末っ子幼稚園のママ友たちと子ども服をつくって販売。
義父が入退院を繰り返し、介護が始まる。
40代
指圧、アロマセラピー、整体を習う。
義母も倒れ、ふたりを介護する生活に。
見送ったあと、マッサージサロンを開く。
父の介護が始まる。
50代
和菓子づくりを習う。
夫が「日本酒と料理 横尾」をオープン。
2005年、56歳で「お茶とお菓子 横尾」をオープン。
60代
大人服のブランド「クロロ」をスタート。
母の介護が始まる。
夫が倒れ、他界。
2016年、最初の店を閉める。
翌年、2番目の店を1年6カ月の限定オープン。
70代
クロロの拠点を島根・松江に移し、2拠点生活に。
コロナ禍で東京へ拠点を戻す。
2024年2月に、75歳で3番目の店をオープン。
<撮影/近藤沙菜 構成・文/石川理恵>
横尾光子(よこお・みつこ)
1948年、兵庫県生まれ。銀行員、専業主婦、整体師などを経て、2005年より東京・吉祥寺に「お茶とお菓子 横尾」を11年間営んだ。2008年、ファッションブランド「クロロ」を立ち上げ、大人服を展開。2024年2月、同じく吉祥寺に「お茶とお菓子 横尾」を再オープン。インスタグラム@yokoomitsuko
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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第1章 これからの「おいしい生活」のつくり方
料理家・大庭英子さんには、いまの自分にちょうどいい、レシピ6品と台所仕事の工夫を、スタイリストのchizuさんには、気負わず楽しむ、テーブルコーディネートのコツを教えていただきました。
第2章 おしゃれは心のビタミン!
中野翠さんのエッセイと、ぬ衣さん、山下りかさんの春夏秋冬のコーディネートを紹介します。
第3章 豊かな人生のための幸せの支度
山本ふみこさん、ユキ・パリスさん、中島デコさん、松場登美さん、横尾光子さん、坂井より子さんの暮らしの流儀を紹介します。
第4章 心身とお金を整えるために
家で簡単にできる体操や、節約のこと。
第5章 人生の豊かな「しまい方」
石黒智子さんがはじめた終活と、井上由季子さんが経験した家族の介護について、お話を伺いました。