(『天然生活』2024年2月号掲載)
郷土の食文化をつないでいく
朝9時、ここは「津軽あかつきの会」の調理場、にぎやかな声が飛び交います。
地元食材を使って津軽で食べられてきた伝承料理をつくり、お昼の時間帯だけお客さまに提供するのです。
12時前後には客人がやってくるので手際よく作業を進めていかないとでき上がりません。何しろ15~16品もの料理をつくるのですから。
津軽あかつきの会はいまからさかのぼること約30年前、道の駅ひろさき「サンフェスタいしかわ」が開業し、その加工部門で働いていた農家の女性たちを中心に2001年に結成されたことに始まります。
当時、会のまとめ役として工藤良子さんがまず行ったことは、お年寄りから地元に伝わる料理や保存食の知恵などを聞き取ること。
「村の公民館に人が集まるので、雑談からいろいろな話を聞きました。昔は冠婚葬祭があれば、おべ様(物知り)が来て、指図しながら料理を教えてくれたそうです。体験談だから説得力があって」
工夫を凝らしたさまざまな保存食、津軽に代々伝わる料理を記録し、そこから人に料理を教えたり提供したりと後世に残す活動をしてきました。
そして8年ほど前からは工藤さんの自宅を一部改装し、毎週木曜から日曜まで、予約制で昼の膳を提供しているのです。
この日集まった会のメンバーは途中参加者も含めて8名。料理当番的なものはなく自由参加。だれが来るかは当日になってみないとわかりません。
数名のコアなメンバーがいるので小人数の予約であればなんとかなると。会に加わる女性たちは家業や仕事のある人、介護、育児などさまざまな事情があります。
だからまずは家庭優先、仕事優先、来れる人が来ればいいという、おおらかな枠組みです。
メニューはその日の材料を見て決めます。作業台には塩抜きしたふきやわらび、水でもどしたぜんまい、大鰐(おおわに)温泉もやしなど、この地域ならではの食材が。
「できるだけ地元のものを使います。たとえば、こっちはかつおが捕れないのでだし汁にはかつお節は使わず、煮干しと昆布を使ったり。最近はなまぐさいって嫌がられることもあるみたいですが、なんとなく懐かしい、だし汁のいいにおいがするという声もいただいたりして、そういうことが食べる人の気持ちを動かすのかなと思います」と会の副会長を務める森山千恵子さん。
森山さんは前日から乾物をもどしたり、塩蔵した山菜の塩を抜くなどの準備をしていました。その山菜類のほかに、ごぼうや大根などの根菜、高野豆腐を細かく切って「けの汁」をつくります。
この料理は冬の津軽地方を代表するもので、すりつぶした大豆が入るのが特徴。
「2021年に『津軽伝承料理』(柴田書店)というレシピ本を出してから、私たちが津軽伝承料理として提供する料理は親の気持ちとか、私たちの気持ちを、料理を通して伝えることがすごく大事なんだろうなと感じるようになりました。郷土に伝わっている料理というのは、一生懸命子育てをしてきた母さんの思いがあってみんなで支え合い、つながってきたものなんだって」(森山さん)
あまり身近ではない伝承料理も、食べる人を思いやる愛情に満ちた料理だという捉え方をすれば、ぐっと身近なものに感じられます。
会に入りたい人は、いつでもだれでもどうぞ
厨房では野菜をきざんだり、すり鉢で豆をすったり、鍋の様子を見たり。役割分担があるわけではなく、おのおのが仕事を探して作業を進めます。
この日、入会1週間目という小田桐晴子さんはにんじんや玉ねぎのみじん切りをしていました。
「祖母がこの会に入っていたのですが、数年前に病気で亡くなったんです。祖母がいなくなって家で食べていた料理が食べられなくなり、舌は味を覚えているけど、自分でつくるとその味にならない。だから祖母がつくってくれたものを教えてもらおうと入会しました。そして初めて、こんなに手がかかっていたのだと知りました」
周りの状況を見て動きまわる中田久子さんは入会6年目。津軽伝承料理をもっと知りたいと入会しました。
「実はあまり料理に興味がなかったんです。でも、津軽の伝承料理と、この会の人たちの人柄にひかれ、勉強に来ています。まだまだ修業途中で」
「見学のかたちで何回か来て実際につくって試食して、ここの味を知って、それで仲間になりたかったら入ればいいという感じで。面白そうって入ってきても実際は雑用がいっぱいあるし」(工藤さん)
現在の会員は37名。会に加わる理由は料理好き、仲間好きと、それぞれみんな違います。
<撮影/山田耕司 構成・文/水野恵美子>
津軽あかつきの会
津軽地方の伝承料理を1食1,500円で提供
住所:青森県弘前市石川家岸44-13
営業時間:11:30~14:00
定休日:月・火・水曜
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです