(『天然生活』2021年10月号掲載)
なんでもないかごが好き。どう使うかを「見立てる」のが楽しいんです
津田晴美さんの仕事は「美しいものを指差す」ことです。
インテリアスタイリストを経て、ホテルなどのプランニングや美術展の企画などを手掛けてきました。
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2013年に東京から熊本へ暮らしの拠点を移し、いまはご自身の店「Quintessence(クインテッセンス)」を運営しながら、デザインやプランニングの仕事をしています。
そんな津田さんが、暮らしのなかで、かごをどう選び、どう使われているのかが知りたくて、アトリエを訪れました。
まず見せていただいたのが、いつも寝室で使っているふた付きの3つのかごです。
一番大きなかごには、真っ白な麻のシーツを。まんなかのサイズにはパジャマを、小さなものには下着類を。それぞれの「しまった姿」の美しいこと!
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ふたがぴったりと閉まるかごは、編み手の技術があってこそ。カンボジアのラペア素材のかごは「gallery KEIAN(けいあん)」オリジナル
「知り合いから頂戴した、籐の一種のラペアという素材でつくられたカンボジア製のかごです。しばらく使わずに置きっぱなしだったんですが、ある日ふとパジャマを入れてみたらなかなかよくて」
何に使うかをしっかり考えてから買われるのかと思いきや、いま、津田さん宅にあるかごは、自然に集まってきたものばかり。
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地元・熊本のかご。本来茶碗を乾かすためのもので、津田さんのかごの原風景。きっちりとしすぎない網目のゆらぎが魅力
台所で湯飲み茶碗を入れているのは、なんと豆腐が入っていたかごだそう。
「民芸とか工芸とか、特徴的でそのものが際立つかごは、私には少し息苦しいんです。何気ないけれどよく見るときちんとつくられている、そんなものが好きですね」
生活感は隠すのではなく光を当てて生かすもの
暮らしにかごを取り入れたのは、1970年代に熊本から上京し、美術大学に通い始めたころでした。
「ポスターカラーを何十色もそろえなくてはいけなかったのですが、必要な分だけをピクニックみたいにバスケットに入れていたの。そのまま授業に持っていくと、なんとなく楽しい気分になるのよね。ジェーン・バーキンが、何もかもをガサッと入れて持ち歩くのに、かごバッグを使っていたそうです。それが、あの『エルメス』の『バーキン』誕生のきっかけになったという話もあるくらい。かごって、なんでも引き受けてくれるのが、いいところですね」
台所では、平たいかごににんにく、しょうが、赤とうがらしを。書斎には、小さなピンク色のかごにCDがぴったりサイズ。
「どう使おうかと自分の頭で考える。それが『見立て』ということかしら。生活の景色を描くように工夫する時間が楽しみですね」
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おばさまの持ち物だったという古い平屋の天井を抜き、美術館用の白いペンキを塗って美しく整えたショールーム兼アトリエ
日常の時間をひとまとめにする。津田さんにとってかごはそんな役目を果たしているよう。
「セミナーなどで生徒さんには、『きれいなものを浴びるように見なさい』と伝え続けてきました。きれいなものを見続けていると、自分の部屋の中のきれいな部分が見えてきます。そこを大事にしようと思えばいい。『こいつがワルモノだから片づけよう!』と追いかけ続けるとキリがないんです。そうじゃなくて、部屋の中でハッとする美しい部分が、きらりと輝けばいいんだと思っています」
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現在ショールームは予約制。引き出しの中には上質なタオルやパジャマなど、津田さんの目で選び抜かれた日常の品々がそろう
「収納」と聞くと、いかにごちゃつきをなくして、すっきり見せようかと考えがち。
でも、津田さんが教えてくれたのは、ありのままの日常のなかにある美しさでした。
がんばって片づけなくても、ざっくりと放り込むだけで「いい感じ」に見える。
そんな「いい感じ」のさじ加減こそ、センスを磨くということなのかもしれません。
<撮影/亀山ののこ 構成・文/一田憲子>
津田晴美(つだ・はるみ)
インテリアスタイリストを経て「PEN PLUS INC.」設立。2013年に熊本に移住。現在はショールーム「Quintessence」の運営とデザインおよびプランニングを手掛ける。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです