(『天然生活』2022年4月号掲載)
山本三千子さんの春をよろこぶ室礼

室礼(しつらい)とは、お正月、節分、雛祭などの年中行事の際に、ものに思いを込めて祈る、日本の美しい暮らしの文化です。
かつて日本では、床の間を祈りの場として行事を行ってきましたが、住宅様式が変わったいま、山本三千子さんが提案するのが、長板一枚の祈りの空間を家の中に持つことです。
「長板(角盆など)を好きな場所に置き、季節のものを盛ります。
“盛る”という漢字は皿の上に成と書きますが、室礼では物事を成し得ますようにという願いや、成し得たあとの感謝の心を皿の上に盛ります。ものに心も託すのです」
年中行事はその由来や意味などをわかったうえで行うと、より奥深いものになるといいます。
「年中行事は“事を行う”と書きます。ものに寄せて祈り、願いを行うということです。
実際に行事を行うなかで季節を楽しみ、自然の中で生かされていることを体得していきます。
また、生まれ育った風土や土の中に眠るご先祖様に感謝する機会にもなります。
雛祭などお祝いの行事にもご先祖様や神様が同席してくださいます。どうぞ一緒に遊んでみてください」
雛祭の室礼
厄災を人形に託して穢れを払うという、本来の雛祭がもつ精神性を表現

雛人形の本来の姿は流し雛。
厄災を人形(ひとがた)に託し、穢(けがれ)を流し去る雛祭の原型です。
奉書(ほうしょ)でつくった紅白の人形を雛とし、京都御所の紫宸殿(ししんでん)に倣い、向かって右に桜をしつらいます。
五色の組紐は女雛が手にしている檜扇の見立て、儒教の五常=五つの道徳を表しています。(青=仁、赤=礼、黃=信、白=義、黒=智)
材料
人形の額、花毬、飾りはまぐり、五色の組紐、菱形赤奉書、長板
〈撮影/萬田康文 取材・文/野上郁子 協力/shitsurai.japon〉
山本三千子(やまもと・みちこ)
夫の死に直面した際、年中行事で心が救われたことを機に、南宋瓶華四世・田川松雨氏に師事し、室礼を学ぶ。「室礼三千」主宰。著書に『室礼おりおり』(NHK出版)、『暮らしの室礼十二か月』(淡交社)など。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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