(『天然生活』2020年9月号掲載)
思い出ごと受け継ぐ親子3代のレンガづくりの台所
世界遺産・石見銀山とともに栄えてきた山間にある小さな町、島根・大森には、いまも古い町並みが息づきます。
松場奈緒子さんは、東京でパタンナーとして働いたあとに結婚。2012年、生まれ育ったこの町に戻ってきました。

松場さんが小学生のころにレンガづくりに。20年余り経ち、味わいが増した。「背が低い母は吊り戸棚をつけなかったんです。かえってすっきり。開放的です」
もともと呉服屋を営んでいた松場家の住まいを引き継ぎ、現在は、5人のお母さんとして奮闘中です。
「幼いころ、両親は忙しかったので私はもっぱらおばあちゃんっ子。地域の方にもかわいがってもらい、いまだに近所のおばあちゃんからは『あんたのオムツ替えたよ~』って、よく声をかけられます」
この家を切り盛りするようになり、代々続いてきたものをつないでいる実感もわいてきたそう。
レンガづくりの台所は、松場さんが小学生のときにリフォーム。その後は壊れたオーブンと一緒にコンロを入れ替えただけ。いまもほぼそのままの形で使っています。

島根・大森を旅行中のフランス人パティシエに教わったクレープ。3歳の奈々ちゃんが生地を混ぜてくれた
「家族と対面しながら調理できるアイランドキッチンにも憧れましたが、ここには小さいころの思い出もあるので、あるものを生かして使いつづけています。子どもが5人いるとハプニングの連続ですが、だんだんお互いで面倒を見合うようになってくれて。台所に一緒にいるだけで大丈夫だって安心できるようにもなりました」

子どもたちは苦味のある柑橘類が苦手のようで、手に入ったら砂糖漬けにして保存。ジュースやジャムとして楽しみ、夏はかき氷のシロップに
<撮影/森本菜穂子 取材・文/宮下亜紀>
松場奈緒子(まつば・なおこ)
文化服装学院卒業。現在、両親が創設した石見銀山生活文化研究所で「群言堂」に勤める。島根・大森町の子育て支援サークル「森のどんぐりクラブ」で放課後子ども教室も運営。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです