• 母は人生における大先輩。日々の言葉やその背中から学んだことを振り返っていただきます。文筆家・桜井かおりさんが憧れの母から引き継いだ、人生を前向きに楽しもうとする気持ちについて教えていただきました。
    (『天然生活』2024年5月号掲載)

    勉強はいいから、だれからも愛される人に。母から学んだ大切なこと

    「母は私の憧れの女性です。人生を楽しもうとする前向きな気持ちを、母から引き継いでいますね」

    娘の桜井かおりさんがそう話すほど、母・藤子さんは素敵に歳を重ねています。

    かおりさんの父が銀行員という仕事柄、転勤も多く、専業主婦として家庭を守ってきた藤子さん。本当は仕事に就きたい気持ちもあったそうですが、趣味に打ち込むことで、向上心や好奇心を満たしてきました。

    「手先も器用でセンスもよくて聡明な母は、何でもできちゃう人。絵を描けば毎年コンクールに入選するし、40代の後半に始めたフラダンスは、先生として教えるようになったほどです。料理も裁縫も得意でした」と、かおりさん。

    子ども時代に着ていた洋服は、すべて藤子さんの手づくりでした。当時の写真には、手編みの赤いニットを着て満面の笑みを浮かべる、かおりさんの姿が。

    それを見ながら、懐かしそうに藤子さんは振り返ります。

    「結婚したばかりの若いころは、お金もないでしょう。それでもおしゃれがしたいから、娘の服だけでなく、自分の服も手づくりしていました。市販の服の裏側を見れば、大体つくれちゃうのよ。主人が着なくなったスーツから生地のきれいなところを使ってタイトスカートを縫ったり、古くなった服からボタンだけ外してブローチにしたり。私は、遊び心のある物や、ほかの人が選ばないような物を持ちたいんです」

    そんな母に育てられたかおりさんも、おしゃれが大好きに。とくに40代、50代と歳を重ねるにつれ、藤子さんのおしゃれの持論がわかるようになったといいます。

    「母はよく、『欲しい物がなくなったら人生はつまらないわよ』といいます。だから私も、いくつになっても落ち着かなくていいんだなあと、思えるように。おしゃれとの出合いを、ずっとワクワク楽しみたい。がんばって働いて、自分にご褒美をするのが喜びです」

    家にいるときも、藤子さんは口紅とマニキュアを塗って身だしなみを整えています。かおりさんはその影響を受け、カフェを営んでいたころ、休みの日に朝からマニキュアを塗ることが、オンオフの切り替えになっていたそうです。

    母の願いを受け取って、自分で選んだ道を進む

    父の転勤で、転校の多い子ども時代を過ごしたかおりさん。授業の進み方が違うため勉強に苦労しましたが、藤子さんからは「勉強はいいから、だれからも愛される人になりなさい」といわれて育ちました。

    大学には進まず、親にだまって就職の道を選択。そのことを担任の先生から聞いた藤子さんは「本人が選んだ道ならば、それでいいです」と答えたといいます。

    転職、結婚、出産を経て、かおりさんはふたりの子どもがまだ保育園児だった2001年に、「カフェ ロッタ」をオープンしました。カフェラテに描いたスマイルのラテアートが人気となり、行列ができる繁盛店になったのです。

    「私は母のように絵が描けない」と話すかおりさんですが、お店の中ではワンポイントのイラストを描いて、見る人を笑顔にしていました。「ふつうじゃつまらない」という工夫の気持ちや、人を喜ばせたいというサービス精神は、藤子さんの言葉を受け取って育んだ「かおりさんらしさ」なのです。

    家族の思い出

    画像: “母”から学んだ大切なこと「欲しいものがないと人生はつまらない」文筆家・桜井かおりさんが“憧れ”の母から教わった3つの心得

    藤子さんの手づくり服を着ていたかおりさん。藤子さんがミス臼杵(うすき)に選ばれたころや、フラダンスをしていたころの写真も。



    〈撮影/近藤沙菜 取材・文/石川理恵 撮影協力/AGIO natura 大船店〉

    桜井かおり(さくらい・かおり)
    大手損害保険会社勤務や販売職を経て、2001年、東京・松陰神社前で「カフェロッタ」をオープン。2021年に建物老朽化のため惜しまれつつ閉店。その後は、執筆や講演会などを行う。著書に『カフェロッタのことと、わたしのこと』(旭屋出版)などがあるほか、天然生活webでの連載も人気。
    インスタグラム:@kaorilotta

    桜井かおりの雑記帖

    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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