(『天然生活』2022年6月号掲載)
ティータイムは自分と、コミュニティとつながる時間
住宅街を散策していると、庭先のベンチに座ってお茶を片手に社交に興じている人々がいたり、お宅に伺うと軒先にお茶やハーブがたっぷり入ったジャーがずらりと並んでいたり、はたまたお茶で染めたというクロスがキッチンに掛けられていたり。
米国・ポートランドの人々が、ふだんから何気なく行っているお茶とともにある暮らしは、奥行きと懐の深さ、工夫と気負いのなさが程よく混在しています。

昼から外でハッピーアワーを楽しむ人が多いポートランド
こんなふうに自由にラフに、人を、そして自分自身をもてなすティータイムを送りたいと、つい感心させられるのです。
自らの心身をいたわること、医食同源の実践、ものの選び方に生かし方。そんな日々の営みにアクセントやリズムを添えるように、彼らのティータイムは存在しているよう。
その具体的なアイデアやレシピを初夏目前のポートランドからお届けします。
太陽の力と庭のハーブで“Sun”teaを

名前の通り、Sun=太陽の光や熱の力でゆっくり、じっくり半日以上かけて抽出されるサンティーは、春から夏にかけてポートランドの家々の窓辺やポーチでよく見かける光景。
つくり方はシンプルで簡単。大きめのびんに、好みの茶葉やハーブ、あればフルーツを入れ水をたっぷり注ぎ、日の当たる場所に置いておくだけ。
だいたいの人が「そのとき、あるもので適当に」というラフさも“らしい”ところ。
今回は、ルイボスティーをベースに、庭のフレッシュなミント、カモミール、ブラッドオレンジを合わせて。
ナスタチウムやビオラなどのエディブルフラワーを加えると、見た目も華やかに仕上がります。

最もシンプルにサンティーを楽しむなら、旬の摘みたてハーブをさっと洗って、水に入れて日の光の下に置くだけ。自然に感謝しながらいただきたくなる

茶葉をチーズクロスに包み、サンティーの準備中。ティーバッグが主流のアメリカですが、エコ意識の高いポートランドではこんなふうにごみを減らす工夫も
ベッドから始めるセルフケアティータイム
スローライフの先駆けであったポートランドでも、日々の多忙から自分をいたわることをなおざりにしてきたことに多くの人が気づくようになりました。

読みかけの本を広げるもよし、ぼーっと過ごすもよし。いかに効率的に過ごすかが重要視されがちな朝時間を、いかに何もしないか、ということを重視するモーニングセルフケアのティータイムに
そして頻繁に使われるようになった“Self care(セルフ ケア)”という言葉/概念。
週に1日でも自分を甘やかし、許し、気分のおもむくままに過ごす。そのひとつが朝のお茶をベッドでゆっくりとる習慣です。

メニューはビスケットとお茶など、至ってシンプル。
携帯電話やTo doリストからは心身を切り離し、ありのままの自分を受け入れる、句読点のような時間です。
ローカルメイド。人気のマイカップは陶器製
環境問題がいまほど取り沙汰されるずっと以前からサステイナビリティに取り組んできたこの街では、お出かけにマイカップやボトル持参は基本中の基本として浸透しています。

たいていのドリンクホルダーにフィットするサイズ感で、容器の熱さ対策には別途、ゴム製バンドを付属して。自宅で、ふたを取りそのままカップとして使用するのにもいいデザイン
新しい注目は、持ち帰り用カップの形状はそのままに、容器部分が陶器でふたがゴム状のもの。
クラフトが盛んなポートランドでは女性陶芸家も多く、こちらの作品も地元アーティスト、マルティナ・ソーンヒルさんが手がけたもの。
ステンレスやプラスチックではなく、外出先でも陶器のマイカップでお茶を楽しみたい、という声にこたえたもの。
ポートランドの人々が興味を寄せるエコ、クラフト、食、というジャンルが象徴的に詰まっています。
クロス1枚でできるお外ティータイム
雨が多い街、ポートランド。だからなのか、少しの晴れ間を見つけては、自宅のポーチや庭でさっとお茶と社交をたしなむ人たちをよく見かけます。

お茶を飲む場所も気分転換の大事な要素のひとつ。ベランダなどにテーブルセットを置くだけでもよいが、そこにクロスを1枚かけるだけで、気軽に変化を加えられる
その気軽さのヒントは小さな心遣いのバランスなのかもしれません。お茶に合わせるのは、調理を介さないような簡単なものばかり。
たとえば、パン、チーズやフルーツを各自自由に切って器に載せるだけの手軽さ。
そこにクロスを敷いて、ささやかにキャンドルや花を添えるだけで、さりげないおもてなしになるのです。
これからの季節ならサンティーをアイスティーに仕立ててそのままテーブルに出せば、手軽なうえに見た目にも華やぎます。
<撮影/シェリル ジュエテン スタイリング/アニー パーカー 構成・文/瀬高早紀子>
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです