(『天然生活』2024年6月号掲載)
直感を頼りに、鎌倉へ。小さなショップとブランドをスタート
鎌倉駅西口から、のんびり歩くこと約15分。トンネルを抜け、海よりも森の気配がぐっと濃くなってくる佐助地区の一角に「アピスとドライブ」はあります。
今井クミさんが夫の後藤国弘さんとともに、週末だけのこのショップ&カフェを開いたのは2022年11月のこと。

鎌倉の深い緑を感じられる、心地よい店内。奥には畳敷きの部屋があり、小さなお茶会や和菓子づくり、ダーニングなどのワークショップが開催されている。「ランチのメニューも、ショップに並べている品々も、私たち夫婦のこれまでの仕事や旅先のふとした出会いをきっかけに見つけたお気に入りばかりなんです」
それまでは東京・神宮前にオフィス兼住居を構え、アートディレクターとして商品パッケージや広告、媒体を世に送り出す日々を過ごしていました。

神宮前時代のオフィス兼住居は、白が基調のモダンなデザイン。「おばあちゃんになってもこの街に暮らすと思っていました」
「デザインの仕事はいまも大好きですし、多少のハードワークも慣れっこ。でも、コロナで世界じゅうの動きがストップした2020年、だれもいない表参道の交差点でただ、信号だけが変わっていく様子を目にしたとき、『いつ、何があるかわからないなら、自分に正直になれる仕事をしよう』って、強烈に思ってしまったんです」

店舗の2階が居住スペース。光差すリビングでは、縁あって保護した愛猫「トラ」がお出迎え
そんなころ、気分転換に訪れたのがここ鎌倉。
「ちょうど、この佐助地区に来たあたりで、ふーっと呼吸が深くなり、心が軽くなるのを感じて」
そんな直感を後押しするように土地も見つかり、新たな拠点づくりが動き出しました。

店頭には、鎌倉に引っ越してから出会った作家の品も
このときもうひとつ、今井さんが決めたのが「スキンケアブランドを一から手がけること」
かなり大きな挑戦のように感じますが、これもまた不思議なほど自然な流れのなかにあったのだとか。

オリジナルのスキンケアブランド「ジョシーユ」の商品は、開発からパッケージデザインまで自身で手がけている
「コロナ禍では、肌は身体だけでなく心の状態が大きく影響することを実感。自分の心にも寄り添ってくれるようなスキンケアを求めていました。そんな思いを化粧品業界の知人に伝えるうち、驚くほどご縁がつながりました」
そうして、平日はこれまでのスタッフとともにデザイン事務所を運営しつつ化粧品の開発や営業に奔走、週末はカフェでお客さまを迎えて......と、日常はいままで以上の忙しさ。
「そろそろ休み方を決めなくちゃ」と笑う今井さんは疲れる様子もなく、晴れやかな表情です。
「ショップも、デザインも、スキンケアブランドも、大きくなりすぎなくていい。こんなふうに目の前のお客さまに一杯のお茶をお出しするように仕事をし、暮らしていきたいんです」
<撮影/山川修一 取材・文/玉木美企子>
今井クミ(いまい・くみ)
デザイン事務所「アピスラボラトリー」代表。東京・神宮前に長年事務所を構え、広告・パッケージのデザイナー・アートディレクターとして活躍。2020年、鎌倉への移住を決意し、「アピスとドライブ」をオープン。同時期に立ち上げたスキンケアブランド「ジョシーユ」も人気を博している。https://apis-and-drive-shop.com/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです