腰痛を抱えながらの猫との暮らし
もしかしたら「実は自分も悩んでいて……」と思い当たる方も多いのではと思います。
実は私も46歳にして、ついに、これに危機感をおぼえる出来事と遭遇しました。
「ぎっくり背中」と「坐骨神経痛」です。
私は普段家で書き物をして生活しているので、座っていることが大半。ストレッチなどを心がけてはいるのですが、つい気を抜くと、あっという間に重度の腰痛が押し寄せてきてしまいます。
だけど、うちにいる10匹の猫たちにはそんなことは分かりません。
私が座ることもできず横たわっていても、そのうえに、まだ5歳なのにまるで中年太りのようなムチムチの男の子「全」がどしり。
普段は夫のほうが好きなくせに、こんなときにかぎって、なぜか私のお腹から離れません。

整体の先生には「猫と寝るのはやめましょう」と言われたばかり。
だけど、だからって、せっかくあまえてくれる全を下ろすことができるでしょうか?
私はギシギシ負荷をかけられる腰を気合いで耐え、またもや腰痛を悪化させてしまうのです。

「ぎっくり」になってしまい、見直したこと
さすがにこれではいけない! と決意したのは、そうして猫をのせて寝転がっている最中に、なんと「ぎっくり腰」にまでなってしまったとき。
経験したことのない鋭い痛みが腰をつらぬき、トイレに行こうにも立ち上がることも困難に。夫に支えられ、なんとかもらさずにすんだものの、このままでは体は悪化するばかり……。
そこで私が取った対策は、「猫たちのために“私の上“以上に快適な寝床を作ること」でした。

猫が集まる場所をつくって、別々で養生することに
まず、私はエアコンをつけていると寒くてベッドで電気毛布もONにするのですが、その温かさが良いのだろうと、こんな時期ですが床暖房もONにしました。
「お」という感じで、床暖房のあるリビングに猫たちが集まります。
また、家中の座布団をかき集め、リビングのあちこちに配置しました。
私のお腹ほどではありませんが、ふかふかが気に入ったらしく、そこでくつろぐ子も続出。大好きなダンボール箱もどんどん置きます。
おかげで、晴れて私の体は「わざわざ乗るほどでもない場所」に降格したようです(泣笑)

猫は人の痛みが分かる?
それでも、誰よりも甘えん坊で焼きもちやき……でありながら、我が家で一番、人間の心が分かる「全」は、私の痛みも感じるのでしょう。
寝転がる私のそばに寄り添い、私の手のひらをきゅっと摑み、時々、毛づくろいまでしてくれます。
思えば、私のお腹にのっていたのも、私の身を案じてのことだったのかもしれませんね。
私以外にも、時々「腰痛持ちだけど、猫にさみしい思いはさせられなくて……」とがまんされている方もいるのではと思います。
今回、私もぎりぎりまでふんぎりがつかず、お腹にのる猫や、膝にのる猫の重みに耐えていましたが、症状は悪化の一途をたどりました。これでは、かわいい猫を撫でようとして「ぎっくり!」ということにもなりかねません。
そんな方は、どうしてもつらいときは、「居心地の良い寝床・倍増大作戦」で、「同じベッドで寝なきゃいけない」から「場を共有することで安心する」という時間を作ってみてもよいかもしれません。
そして元気になったとき、いっぱいいっぱいかわいがる。
これこそが、「ふれあい」という一番の心のリハビリなのかもしれませんね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇

咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」