飛田さんが信頼を寄せる、ナチュラルワインの専門店

先代である父から店を受け継ぎ、大胆に改修をほどこした「鈴木屋酒店」の店頭にて。正面は壁だけ。入口は右手にひっそり
「実は、料理をつくることよりも、おいしいものを食べるほうが好きかも」と笑う、飛田和緒さん。日々の疲れを癒してくれるもののひとつが、新しいおいしさとの出合いなのだと話します。
そんな飛田さんが折に触れ足を運ぶのが、鎌倉市にあるナチュラルワインの専門店「鈴木屋酒店」。世界中のワインがところ狭しと並ぶ、品揃えの豊富さは圧倒的。多くのナチュラルワイン愛好家から熱い支持を集める人気店です。


「“在庫isパワー”ですから」との店主・兵藤さんの言葉どおり、「鈴木屋酒店」の店内には、希少なナチュラルワインがすき間もないほどずらり
「鈴木屋さんに通い始めたのは、5、6年ほど前。知人のなじみの店として紹介してもらって以来、お買い物をするだけでなく、イベントに駆けつけたり、プライベートでもご一緒したりと楽しくお付き合いさせていただいています」と、飛田さん。
ワインについては「私が飲むのは泡(スパークリングワイン)ばかり」とのことですが、店主の兵藤 昭さんは飛田さんの好みを知り尽くし、いまでは言葉少なくとも毎回ぴったりの一本が差し出される、そんな間柄となっているそうです。
心からおすすめしたいワインを集めて

長野県産の平飼い卵やイタリアのパスタなど、ワイン以外にもこだわりが光る品揃えが楽しい
鎌倉市由比ガ浜で100年以上続く「鈴木屋酒店」。もとは「お酒だけでなく食料品や灯油まで取り扱う、いわゆる“まちの酒屋”だった」という店は、現在の店主である昭さんへの代替わり後、徐々に「ナチュラルワイン」の取り扱いが増えていきました。
栽培から醸造の過程まで、できるかぎり化学肥料や化学薬品を使用せずに育まれたそのワインとのご縁が深まっていった理由を、兵藤さんはこんなふうに話します。
「味の複雑さや多様性に加え、カルチャーそのものにも魅力を感じたのが、最初の理由です。加えて、年を重ねるほどに、酸化防止剤が多く入りすぎたワインが自分にとって楽しみにくいものになっていることにも、気づかされました」

「今日は私好みの泡と、お客さま用に赤もお願いします」。数ヶ月ごとに店に足を運び、まとめてワインを購入するのがすっかり飛田さんの習慣に
文化への共感とともに、自身の体が感じる「飲みごこち」にも、耳を傾けて。そんな品ぞろえだからこそ、山のようなワインのなかからそれぞれにぴったりの一本を提案できるのでしょう。
「いちばん最初に鈴木屋さんを知ったころは、間口がいまと違って、紫のビニールのれんが下がる、もっと怪しげな雰囲気で。知人におすすめしてもらったのに、しばらく訪ねるのをためらっていたんですよ」と、笑顔で振り返る飛田さん。
兵藤さんは、「いまも一見、どこから入ったらいいかわかりづらいかもしれないですよね。ただこれも、ワインの品質を守るため。あえて正面の入り口をふさぎ、店内に光が入りすぎないようにしているんです」と話します。
「お酒も食材も、いつもと違う味と出合うことで、食への関心も広がります。台所に立つことが少し億劫だな、と感じるときにも、新しい味を探求してみることをおすすめします」(飛田さん)
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飛田和緒さんの、健やかに日々を送るためのごはんと暮らしの知恵をご紹介。
季節の食材を使った保存食からお弁当まで、知恵がつまった一冊をお楽しみください。飛田さんがずっと伝えてきたのはいつものごはんと暮らし。そのときどきに「これが一番」と気に入ってつくったものばかりです。加えて最近の雑感や、いま私の料理に欠かせない道具、近ごろお気に入りの調味料などについて、新たにお伝えしています。このなかからひとつでもお気に入りが見つかったら、ぜひ繰り返しつくり、手になじませて、あなたの味にしてみてください。
<撮影/山田耕司 取材・文/玉木美企子>
飛田和緒(ひだ・かずを)
東京に生まれ、高校3年間を長野ですごす。結婚後に料理家としてデビュー。身近な食材で手軽につくれるレシピが幅広い年代の支持を集め、出版した書籍は100冊以上にのぼる。神奈川県の海辺の街に暮らし、娘の進学とともに現在は夫とのふたり暮らし。日々の食卓を記録したSNS「#ひとりごはんときどきふたり」も注目を集めている。著書に『おいしい朝の記憶』『くりかえし料理』(ともに扶桑社)など。インスタグラム:@hida_kazuo
※記事中の情報は、別冊天然生活『飛田和緒さんの四季を味わうごはんと暮らし』掲載時のものです