(『天然生活』2022年7月号掲載)
猫沢エミさんが選ぶ「夏の本と映画」8作品
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
陰陽師 1巻

岡野玲子著 白泉社
平安時代、陰陽師・安倍晴明が源博雅と都の怪異に挑む物語。
「幽玄な日本の夏という感じ。岡野さんのイマジネーションと画力がすさまじい、アート作品。物語の展開も面白いです」
ボルネオホテル

景山民夫著 KADOKAWA/角川ホラー文庫
嵐の中、ボルネオ島のホテルに閉じ込められた9人が怪奇現象に襲われる。
「言葉選びが上品で、言葉で映像を見せてくれる作家。ホラーは範疇外なのですが、毎夏に手に取る一冊です」
愛人 ラマン

マルグリット・デュラス著 清水 徹訳 河出書房新社
1929年のベトナムを舞台に、中国人の青年とフランス人の少女の恋を描く。
「好きな作家で、10代の終わりから繰り返し読んだ一冊。映画の主人公に憧れて、服装もまねしました」
移動祝祭日

ヘミングウェイ著 高見 浩訳 新潮文庫
ヘミングウェイが、1920年代のパリでの青春を回想した一作。
「初めて留学した当時の、駆け出しの気持ちを共有できる本。パリの公園で夏に読んだ思い出。永遠に手放さない本です」
猫が行方不明

1996年 フランス 監督:セドリック・クラピッシュ アイ・ヴィー・シー
パリの下町を舞台に、主人公が飼い猫探しを通して自分探しをしていく。
「パリの街の様子や、若い子たちの息吹を存分に見せてくれる。1秒で表現したヴァカンスシーンが大好きです」
青いパパイヤの香り

1993年 フランス・ベトナム 監督:トラン・アン・ユン カルチュア・パブリッシャーズ
ベトナム・サイゴンの一軒家を舞台に、奉公に来たひとりの少女の成長を描く。
「ベトナムの、むせかえるような夏の湿度を感じられる作品。女性の色気を美しい視点で見せてくれます」
冒険者たち

1967年 フランス 監督:ロベール・アンリコ 発売元:ショウゲート/販売元:アミューズソフト
名優たちが織りなす、豪快な冒険を描いた夢物語。
「大冒険の代表作。夏、若さ、青春、海、ロマンが詰まっている。いまは描くことが難しい、荒唐無稽でダイナミックな世界が楽しめます」
君の名前で僕を呼んで

2017年 イタリア・フランス・ブラジル・アメリカ 監督:ルカ・グァダニーノ カルチュア・パブリッシャーズ
17歳と24歳の青年のひと夏の情熱的な恋を、北イタリアの美しい風景とともに描く。
「夏や命のきらめきが凝縮された、夏に必見の映画。ジェンダーを超えた美の世界に包まれます」
青春期に触れてきた永遠の名作
取材時(2022年)、パリに移住したばかりの猫沢エミさんは、夏から青春や若さ、自分探しをイメージしたそう。
「渡仏を機に自分を探さざるを得ない感覚があり、この夏は青春期に触れてきた作品やちょっと切ない気持ちになる作品を見直したくなりました。自分の年齢よりも若い世代の作品や別世界の作品を観て、ときめいたり心を揺らしたりしたいですね。歳を重ねると腹の底から笑ったり、本気で泣いたりということがなかなかできないからこそ、夏は自分を解放できるいい季節だと思います」
映画は、作品に合わせて飲みものや見る時間帯を選ぶなど、シチュエーションを楽しみながら鑑賞するのが好きだといいます。
「作品に出てくる食事を用意しておいて、食べるシーンのところで一緒に食べると、勝手に参加しているようで楽しい。作品から受け取るだけではなく、自分も少しクリエーションすると、映画をもっと面白く楽しめます」
夏の本と映画のお供
カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュのコーヒー

深煎りブレンド サマーサンバ/カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ
毎月必ず取り寄せていたコーヒー。
「同じ品種の豆でも、毎回初めての味になるブレンド。本当においしいです」
〈撮影/林 紘輝 取材・文/赤木真弓〉

猫沢エミ(ねこざわ・えみ)
ミュージシャン、文筆家。2007年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー『BONZOUR JAPON』の編集長を務める。超実践型フランス語教室「にゃんフラ」主宰。今年2月に再び、愛猫2匹とともに渡仏。著書に『猫と生きる。』(扶桑社)ほか。雑誌『天然生活』にて「二度目のパリ季記」が連載中。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです