お薬嫌いの猫たち。どうやったら飲んでくれるか思案して
「うちの猫、薬を飲んでくれないんです」
そんなお悩みをよく聞きます。
たしかにお薬は飲ませなければいけないものだけど、好きだという子はなかなかいません。
かくいう我が家の10匹もみんなお薬嫌い。
獣医さんに相談すると、「上手なお薬の飲ませ方」を教えていただけたりします。
抱っこして、口を大きく開けて、ひょいとその中に投げ込む……。
分かります。ですが、我が家はその手前でつまずいてしまうのです。
というのが、今、うちでお薬……というかサプリメントを飲んでいるのは15歳になる関節炎の女の子「ウン」。
彼女はとても引っ込み思案で怖がりで、しかも繊細で神経質。
普段はひそかな甘えん坊で、リビングのソファで私の隣りに寄り添い、そっと喉を鳴らしているのですが……。ところが「さあ、サプリを飲ませよう!」と私が思った瞬間、その気配を読み取ってすっと逃げてしまうのです。

「薬はいやなもの」という雰囲気を消す
サプリを飲まなければウンの関節が痛い。なんとか負担なく飲ませたいものの、においが気に入らないのか、おやつに混ぜても、ごはんに忍ばせても、器用に避けて残してしまいます。あまつさえ、おやつそのものを嫌いになってしまうありさま。
そこで私は学びました。
サプリの「中身」ではなく、「雰囲気」が一番大切なのだと。
私が少しでも「サプリの準備」を始めると、彼女は察知します。
キッチンに立ち、「サプリの箱を開ける音」や「サプリをケースから出すパチッという音」。それだけでウンは背筋を伸ばし、警戒モードに入るのです。
だから今では「気配を消す作戦」が必須。
まずは何げなくシンクの蛇口をひねり、水音をたてます。洗いものをするふりをしながら、そっとケースのふたを開けます。パチッという音も水音にまぎれさせ、ウンの耳には届かないように。
それから冷蔵庫を開けたり、食器をカチャリと触ったり……。とにかく、「日常」の音で包み込みながら、静かに準備を進めるのです。
さらに大切なのは「さりげないタイミング」。
ウンのくつろぐソファにそっと座り、テレビをつけたりスマホを触ったり、まるで何でもない顔で一緒にいます。そして、彼女が完全にリラックスしている隙に、そっと用意していたサプリを一瞬で飲ませるのです。
これならウンも「?」顔。
こんなふうに、お薬やサプリの「スムーズな飲ませ方」にはいくつかコツがあることを私はみつけました。
お困りの方は試してみてはいかがでしょう?

猫に薬やサプリをスムーズに飲ませる方法
・サプリや薬の準備時、水道の音や生活音でごまかす
・猫が別の部屋にいるうちに、ケースのパチッという音を先にすませておく
・時間を決めず、猫が油断しているタイミングにする
・あげる前後に猫の好きなおやつやブラッシングを挟み、ネガティブな印象を薄める
・「飲ませる」ではなく「暮らしの一部」として、日々のルーティンにゆるく組み込む

猫は賢い。そして、とても繊細です。
必要なのは、忍耐と創意工夫、そして何より「愛情」。
これからもずっとそばにいてもらえるように。
そして、そのための「お薬、サプリ」が「猫の嫌なこと」にならないように。
私たちは「愛ある忍者」になって、今日もけろっとお薬やサプリを飲ませていきましょう。
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咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」