(『天然生活』2020年12月号掲載)
ポートランドの動物保護団体に聞きました
保護犬へのポジティブな輪を広げるためのQ&A
Q. “殺処分ゼロ”を掲げていないのはなぜですか?
A. 譲渡の数より質を大事にしているからです。
「ほとんどの保護団体は譲渡成立の数をアピールします。もちろん、多くの保護犬に新しい家族が見つかることは喜ばしいことですが、私たちにとっての優先順位は人と動物にとって譲渡やその後の生活がポジティブである、と実感してもらうこと。数より質。1件ごとの譲渡に時間と心を惜しみなくかけるのはそのため。自分で団体を始めた理由もそこにあります」

対面しない配置にある犬の個室。最大20匹ほど収容できるが、コロナ禍の需要高でこの日は数匹(2020年取材時)。日本では年単位で保護団体にいる場合もあるが、こちらでは平均数週間以内には新しい家族に出会える
だからこそ、と、エイミーがひと呼吸おいてはっきりと述べます。
「私たちは“盲信的”殺処分ゼロには反対なんです」と。

「たとえば人を異常に怖がり、警戒しすぎる犬。トレーニングでもどうにもならない、生まれつきや、トラウマによって、けっして変えられない場合もある。そんな犬たちを殺処分ゼロの圧力により、無理に譲渡したら一体どうなるか? 飼い主は保護犬へのネガティブな印象をもつ。再び施設に戻される。また次の飼い主の下へと行くがうまくいかない。保護犬全体へのイメージがダウン。このループは犬、人間、社会全体にも、本当に幸せをもたらすでしょうか?」。
答えはいうまでもありません。ではどうするか、といえば眠らせる。つまり安楽死という選択。米国では動物の命を大切に思うが故の“尊厳死”として、日本よりはだいぶ浸透している思想です。
「当然、安易にそれを行うことはしません。公認トレーナーによって譲渡の前に各犬をチェックするのも結局はポジティブな譲渡の経験を積み重ね、保護犬=欠格品というイメージを有機的に払拭したいから。新しい飼い主には必要な情報やツールは最大限に渡し、譲渡後も2週間の猶予期間を経て、本成立へと至ります」
“Warm,Kind,Welcoming(温かく、やさしく、歓迎されている)”。エイミーが唱えるように繰り返すこれらの言葉は、保護犬を迎える過程からその後もずっと人にも犬にも感じつづけてほしい気持ちの中核。ピクシーはそのサポートのために存在するのだといいます。
〈撮影/SHINO 構成・文/瀬高早紀子〉
ザ・ピクシープロジェクト
学生時代から動物保護活動に関わってきたエイミー・サックスが2007年に発足。“ピクシー”は彼女の母が初めて譲渡した保護犬の名前。
https://www.pixieproject.org/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです