(『天然生活』2024年9月号掲載)
形はシンプル、でも“生地の扱い”を独特に
この日、斉藤さんが着ていたサマーニットはみずから編んだもの。
複雑な編み方より、シンプルな編み方で色の組み合わせを楽しむのが好きといいます。
斉藤さんがつくるデニムの洋服もどちらかといえば形はシンプル、ですが生地の扱いが独特で個性的なのです。

30年前のデニム生地だからこそ醸し出される雰囲気があるかのよう。だから同じものはつくれないと
一番の特徴は生地の端がフリンジ(房状)になっていること。
一定の長さにそろえてあるもの、異なる長さをランダムに組み合わせたもので服がデザインされます。この発想はどこから?
「偶然なの。モサモサしたのが好きで、なんとなく生地を裂いて、ほどいているうちに面白くなって。これなんか、フリンジがこんな長くなってきちゃって。フフフ、いい加減なの」と冗談好きの斉藤さんはいたずらっぽい笑みを浮かべます。
このフリンジ、横糸を1本ずつ引っ張って抜いていくので時間と手間がかかるのだとか。

横糸を1本1本抜き、フリンジにしていく作業はとても多くの時間と手間がかかる

糸の長さによっても印象が変わってくる、それらのバランスを考えながら斉藤さんはデザインしていく

単調にならないよう生地に切り込みを入れ、フリンジに。適当な厚みがあるデニムだからこそ味わえる独特の表情
ちなみに赤と黒のコートは糸を抜くだけで2カ月ほどを要し、ミシンで1枚1枚生地を縫い合わせるよりも時間がかかっています。
手掛けるものはコートが多く、「コートが一番簡単だから。これがスーツだとウエストがどうのとかになるけど、コートは組み立てができれば、あとはまっすぐ縫う感じだから」。
ポケットやボタンはなく、襟に鍵ホックがひとつだけという潔さ。
そして羽織るとドレスのようにも。適当な厚みがあり、思った形にしやすいデニムだからこそのデザインなのです。
〈撮影/落合由利子 構成・文/水野恵美子〉
斉藤照子(さいとう・てるこ)
ハンドメイドの服づくりに携わってきて半世紀以上。いまは自分のつくりたいものを自由に楽しみながら創作活動中。手にするデニムシャツは約50年前、子どもにつくったもの。編み物好きでもあり、ニット作品も多く手掛ける。SAITOSHOP
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです