(『天然生活』2024年9月号掲載)
鳥越観音を開いた慈覚大師の教えに沿った暮らし
岩手県・鳥越地区のすず竹細工職人である柴田さん。
慈覚大師の肉食を禁じる教えは、戦前まで固く守られてきたということですが、恵さんはいまでも肉を口にしません。それが当たり前のこととして、育ったのです。

宅の一角にある恵さんの工房。多くの時間を過ごすこの場所には、目標とする先人たちの作品が飾られている。母・恵美子さんの遺作・ひと抱えもある苧桶も

鳥越山の中腹にある鳥居をくぐり、つづら折りの山道を登ること20分。山頂付近の切り立った壁をくりぬいた岩屋に祀られる鳥越観音・奥の院
自宅の庭先の畑には、恵さんが丹精込めた30種以上の野菜が元気に育っています。
「野菜もお米も自分で育てているから、ほぼ買うことはないです。畑は20代からやっていて、私にとって畑仕事とすず竹細工はどちらも欠かせません。ふたつをこなすことでバランスをとっています」
どんなに忙しくても、早朝に畑仕事を済ませ、それからすず竹細工に取り掛かるのだそうです。
柴田さんの暮らし 01
野菜づくりは心の栄養でもある
若いときから野菜づくりをしてきた恵さん。すべて種から育てるようにしているそう。
キャベツ、大根、白菜、ブロッコリーなど、30種以上。
極力農薬を使わないようにしているため、虫に食べられないようこまめに目を光らせなくてはならないが、「すず竹細工で行き詰まったときは、畑仕事がいやしになります」とのこと。

「畑用の作業着のすり切れたところにペタぺタガムテープを貼ってるの」とお茶目な恵さん。収穫した野菜を教室で配るのも楽しみなのだとか
柴田さんの暮らし 02
岩手県の郷土料理「ひっつみ」
鶏肉を入れてだしをとるのが一般的なつくり方のようだが、恵さんは肉を食べないので、豆腐を油で炒め、にんじん、ごぼうなどの根菜類、たっぷりの野菜でだしをとる。
あらかじめ前の日に、ひっつみ粉に水を加えて耳たぶくらいの硬さに練ったら、冷蔵庫でひと晩ねかせる。
こうするとツルツル、モチモチとした食感になる。

ひっつみの生地をひと口大の固まりにして、手で延ばしながら煮立った汁の中に投入して煮込む

「ひっつみ」を浄法寺塗のお椀に盛る。浄法寺は鳥越から車で15分ほど。浄法寺塗はこの地で採れた国産漆を使っており、希少性が高い
柴田さんの暮らし 03
旧暦5月4日につくる「笹巻き」
笹の葉の防腐性や抗菌性を生かした「笹巻き」。
二戸周辺では鳥越だけで旧暦の端午の節句の前日につくり、神様や仏壇にお供えした。近所にも配ったそうだが、最近はつくる人が減ったという。
恵さんは米粉を湯で練り砂糖とくるみを加え団子にし、さっと湯がいた笹の葉3枚で包み、イグサで3カ所結んで20分ほど蒸す。

蒸さずにゆでる方法もあるそうだが、「水っぽくなるので、私は蒸します。腹持ちがいいので小腹が空いたときにはちょうどいいおやつです」

ほんのり甘くて、くるみの食感がいい。確かに食べごたえがある。素朴なおやつながら、手間ひまを惜しまないものづくりに通じるものがある
柴田さんの暮らし 04
暮らしに生きるかご
当たり前といえば当たり前なのだが、恵さんの自宅にはそこかしこでかごが使われている。
工房の片隅で新聞入れになっているかごに目が留まった。両脇に手が差し込めるようになっていて、欲しいと思う人がたくさんいそうだ。
商品として売られているかと伺ったら、「もう30年前につくったきり、そのままです」

手提げかごの人気は不動だが、暮らしに寄り添うかごの要望もかなり多い
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〈撮影/在本彌生 取材・文/堀 惠栄子〉
柴田 恵(しばた・めぐみ)
1958年岩手県二戸郡一戸町鳥越生まれ。30代で竹細工職人を志す。1995年から2010年まで、鳥越もみじ交遊舎において竹細工指導を行う。その後も私塾を開いて後身の指導にあたり、年に数回、展示会で作品を発表。2024年5月、自身についての本『かごを編む 鳥越のすず竹細工とともに、柴田恵』(リトルモア)が刊行された。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです