実は恐竜よりも古い「三葉虫」の化石

なかよく戯れる2匹の三葉虫。下が化石、上がフィギュアですが、フィギュアの「オレノイデス」は、化石(おそらく「エルドレドゲオプス・ラナ」)よりも7000万年も古い種類です。7000万年といえば、人類と恐竜以上の時間の隔たりです!
川添 実は、この連載が始まったときから、秘めていた野望がありまして。
菅沼 ほお。
川添 実は私、鉱物のほかに化石も好きで、いくつか持ってまして、それも紹介したいなーと。
菅沼 はい。
川添 そこで今日は、中でもとっておきの「三葉虫」の化石を持って来てみました。




菅沼 女性が多い編集部では、この生々しい形状が物議を醸していましたね。
川添 三葉虫は「アンモナイト」に並んで有名で、化石もたくさん売られていて、二大おなじみ化石と思っていたので、反応がイマイチすぎてかなりショックでした。
菅沼 笑。私も名前は聞いたことがありましたが、見たのは初めてです。なんというか……、とても、リアルですね!

編集部員からは「キ〇イ!」と拒絶された、4億1600万年~3億5920万年前の生き物の化石。菅沼は、某・風の谷に押し寄せてくる「王〇に似てる!」といっていましたが、「○蟲は好きだけど三葉虫はちょっと……」とのことでした。大きさの問題なのでしょうか?
川添 編集部のみなさんの反応を見て、全然知られていないようで驚きました。猫型のロボットと小学生がタイムマシンで大昔に行くと、よく登場することでおなじみだと思っていたんですが。
菅沼 猫型ロボットと小学生は知っていますが、三葉虫は知らなかったです!
川添 ご存知な方は、なんとなく、恐竜時代の海底をモゾモゾしているというイメージがあるかもしれませんけど、実は恐竜の時代には三葉虫は絶滅していました。
菅沼 恐竜よりも古いんですか?
川添 三葉虫は5億2100万年前から2億5200万年前まで、3億年以上にわたって生息していたらしいです。
恐竜は2億4000~3000万年ぐらい前から6600万年前までの2億年以下、それに比べて、人類が生まれてたった600~700万年ですから、3億年以上も栄えた三葉虫はすごいんです。
菅沼 なるほど。
川添 その間、海にワサワサいたらしく、化石もいっぱい出るんです。3億年の間にたくさんの品種が登場したので、出土した三葉虫の品種で地層の年代が分かるほどで、「標準化石」とも呼ばれています。

「ぼくたち、大昔の海にたくさんいたよ~」「実は、恐竜より先輩だよ!」(ぜひ、かわいい声で脳内再生してあげてください)
菅沼 三葉虫はもともと海の生き物なんですね!
川添 もともとというか、終始海の生き物らしいですよ。海底とかにワサワサと……。

このたくさんの足で、海底や海底の泥の中をモゾモゾ歩いていたらしいです。三葉虫の直接の子孫は発見されていませんが、現生の生き物のなかでは、カブトガニが一番の近縁なのだそうです
菅沼 うわぁ、想像すると気持ち悪いですね。
川添 あー、いっちゃいましたね。
まぁ、それだけワサワサいたおかげで、化石もたくさんお手頃価格で売られていて、私が買った一番安い三葉虫の化石は500円でした。触るとボロボロ崩れる状態でしたが。
菅沼 笑。そんな古代の生き物の化石が500円なんて、少し驚きですね。数億年前の化石ですよ?
川添 そうなんですよ。ただ、たくさん出土していて、珍しいものではないみたいなんです。
でも、その化石が残っているってすごいことですよね。だって、その後の長い恐竜の時代を超えて、いまに至っているんですから。
化石はもしかしたら偽物!?
川添 三葉虫の化石は日本でも出土するらしいんですが、ミネラルショーなどで売られているのはモロッコ産が多く、私の化石もモロッコ産と説明されました。クリーニングはドイツでされたらしいです。
菅沼 そうなんですね。ところで、クリーニングってなんですか?
川添 化石って石の中に埋まっているものを掘り出して、余分な石を取り除いて化石部分だけを残すわけですが、その作業をクリーニングと呼びます。
この技術が近年ドイツで急激に発展して、まるで「生きているのでは?」と思えるほど精巧に化石をクリーニングできるようになり、結構な高値で売られています。
菅沼 細かい筋一本一本まできれいに見えますね。

まるで生きているかのように、きれいにクリーニングされた化石。化石クリーニングの「ドイツの技術は世界一ィィィィーーーー!」という噂も
川添 そうなんです。ボツボツまで再現されていてハイクオリティですよね。
私の三葉虫は形状がシンプルな品種ですが、とげがいっぱいある品種もあって、そのとげとげをきれいに残してクリーニングしているものはとても高価です。
菅沼 なるほど、このリアルさはクリーニングによるものなのですね。
川添 私のは8,000円と、相場からするとかなり安く買ったので、偽物なのでは? という不安もあるんですが、偽物は本物から型取りした樹脂製なので、火であぶって溶けるかどうかで確認できるらしいです。
菅沼 実際に試していただきたい気もしますが、真実を知るのもこわいですね……。

よくでき、いや、リアルすぎて樹脂製の複製っぽい質感にも見えてきて、だんだん不安になってきます
川添 もし溶けたら悲しいですからね。たとえ偽物だったとしても、よくできているといえばできてますし。ちょっと、化石の裏側を見てみてください。
菅沼 裏側は石ですかね?
川添 はい、写真では分かりにくいんですが、この部分亀裂が走ってますよね。
菅沼 確かに。

右上から左下にかけて、亀裂が走っているのが見えますでしょうか? このわずかな亀裂こそ本物の証なのでは? と、小さな心の支えになっています

右上から左下にかけて、亀裂が走っているのが見えますでしょうか? このわずかな亀裂こそ本物の証なのでは? と、小さな心の支えになっています
川添 これは発掘時に割れてしまって、接着剤とかでくっつけているから安いんじゃないかな~と、だから本物なんじゃないかな~と、自分の中ではそういうことにしています!
菅沼 いいんじゃないでしょうか! いま我々の手元にある図鑑には、三葉虫が生きていたときの姿がイラストで載っているのすが、目がクリンクリンしてかわいいですね。
川添 そうそう。目はですね、昆虫と同じで複眼なんですよ。複眼っていうのは、小さな目が集まった構造で、いろんな方向を見ている目の集合体なんです。
今日は参考に、生きていたときの姿を再現したフィギュアを持って来ました。国立科学博物館のミュージアムショップでお土産に買ったものです。
菅沼 こっちの方が、目が小さくてかわいいですね。化石の方は目が大きく出っ張っているような。
川添 そうそう、品種が違うんですよ。ちょっと目の部分をカメラマンの山川さんに拡大して撮影してもらいましょう。山川さんよろしくお願いします!
山川 今日は結構寄れるレンズなんで、頑張ってみます。

写真中央の丸い突起が目です。小さな円形の複眼がたくさん並んでいるのがハッキリ見えますね。これぞ本物の証、かも? 複眼がたくさんあり、視覚が発達しているというのが、この品種「エルドレドゲオプス・ラナ」の特徴らしいです
川添 おおぉ! 複眼のレンズの形がハッキリ見えますね。これはすごい! こんな微細な部分も化石として残っているんですねー。
この化石はやっぱり本物なのではという確信が増してきました! ありがとうございます!
菅沼 笑。よかったですねー。
<撮影/山川修一 参考文献/『楽しい鉱物学』『楽しい鉱物図鑑』(ともに、堀 秀道・著、草思社・刊)、『岩石・鉱物・化石 DVDつき(小学館の図鑑NEO 18)』(荻谷 宏、門馬綱一、大路樹生・監修、小学館・刊)>