• エッセイストで空間デザイン・ディレクターの広瀬裕子さん。書籍『60歳からあたらしい私』の続編として、そこから続く60代の暮らし方を、60歳になった広瀬さんが見つめます。50代の時と比べ、60代は新たな変化があります。できなくなっていくこと、見送ることも増えますが、反して、気づくこと、自分らしく過ごせるようになる時間できれば、年齢は、やさしくわたしに微笑んでくれるでしょう。「60代の衣食住健」。おつき合いいただけたら、うれしいです。私の防災対策について。

    住まいを変えて、防災対策を見直しました

    東京に戻ってきて早々に見直したことがあります。それは、防災関係です。住民票を変更するため役所に出向いた際、しっかりした「防災の手引き」を手渡されました。ページをめくっていくと用意しておくべき物が事細かに書かれています。それは「自分できちんと備えてくださいね」と言われているようでした。そこで見えてきたのは、地震を含め災害時は「基本自宅待機」ということです。ある意味、それは、当然かもしれません。地域の人口と避難所の数・広さを考えると、収容できる人数は限られています。東京では、いえ、少なくともわたしの暮らす地域では「避難所=自宅」が、ルールのようです。

    それまでも、防災用として、ある程度は用意していましたが、そこで、さらに、見直すことにしました。

    もしもの備え。住む地域や環境によって異なる対策

    まず、行政から再三「お知らせ」として届くのが、簡易トイレの備えです。指定されている避難所は、自宅から徒歩5分ほどの小学校。でも、災害時、そこに毎日、通うのは現実的ではありません。また、現地に行っても、利用できるまでに「1時間近くならぶこともある」とお知らせには書かれています。電気が止まると水洗トイレは使用できません。簡易トイレは「最低5日分」とのこと。わたしは、2週間分、用意しています。

    画像: 10年保存可能な「10年水」。給湯タンクに意識的にお湯をためるようにしています

    10年保存可能な「10年水」。給湯タンクに意識的にお湯をためるようにしています

    災害時の食事のこと。シンプルで満足感のあるものを

    次に水・保存食です。こちらは、長期保存できる物に買い換えました。水は10年。ごはんは5年。以前は「おかずになるもの」として、レトルト食品もストックしていましたが、災害時はゴミの処理ができないため、匂いの強いものや、油が多いものは不向きという専門家のアドバイスを読み「基本はごはん」に切り替えました。白ごはんに塩・梅干し・味噌・ごま、海苔があればなんとかなります。スープ類はお湯が沸かせればいいですが、そうできない可能性もあるので「あれば」くらいで。災害時は、体力気力を保たせることが優先です。プラス、衛生的であることも。匂いの強いものがうまく処理できず、悪臭や虫の発生などを考えると、シンプルなものがいいと思うようになりました。最近、追加したのはお餅です。満腹感が高く「焼いて塩」で十分。また「食べすぎ」「飲みすぎ」に気をつけることも大事だそう。「いつものようにはいかない」と気持ちを切り替えることも必要です。

    画像: ごはん・お餅は5年保存可能

    ごはん・お餅は5年保存可能

    新たに手にした防災ラジオ

    「買おう」と思いながら、ネットショップのカートに入れたままにしていたのが防災ラジオです。こちらは、区の防災グッズチケットで無料で手にしました。これは、便利な(気が利いた)システムで、区から送られてきたカタログに掲載されている防災グッズを各自の必要に応じ選べるようになっています。食品、防寒シート、防災靴、手袋をはじめ、懐中電灯等。わたしは、このカタログで、電池式ラジオを選びました。手動でも使え、ライト・携帯電話の充電も可能です。このカタログで、どんな防災グッズがあるかを知ることもできました。足りないものは、別途、自分で用意するようにしています。

    画像: 区のカタログで選んだラジオと玄関に置いている懐中電灯(電池式)

    区のカタログで選んだラジオと玄関に置いている懐中電灯(電池式)

    いまの住まいは、オール電化のため、災害時の停電を考える必要があります。建物自体に自家発電装置があり、停電になっても24時間は通電可能らしいのですが、それは想定内であれば。自家発電ができたとしても、実際、使えるかは不明です。また、停電が何日もつづく場合あります。こういう時は、手動式・電池式、アナログなものがあると安心ですね。

    その他のこととしては、棚から頭に落ちてきそうな物はなるべく置かない。倒れる可能性のある物は安全な場所へ。ワレモノを置いているところは、扉にストッパーをかける(かけ忘れがちですが)か、元々ストッパーつきの棚に入れる。などでしょうか。実際、東京に戻ってきて、わたしは、立てかけるタイプの姿見を手放しました。本は、リビング等、常にいる場所以外に置いています。

    ものを増やしたくない気持ちと防災対策を両立させるには?

    防災への備えも、防災グッズも、必要なのはわかっているのですが、気持ち的に「そのうち」となりがちです。わたしもそうです。物を増やしたくないという思いもあります。「それはそれ・これはこれ」が、なかなかできずにいます。また、こころのどこかに「どうにかなるのではないか」という甘えもあります。でも、それだと「備え」にならない。いつもは「物は少なく」ですが、防災関係に関しては、ある程度必要と自分に言い聞かせています。それでも、なかなか動けない時は、映画の『007』を思いうかべます。扉を開けると必要なものが整然とならんでいる──そんなシーンです。

    それでも想定外のことは起こります。判断に迷うこともあります。何かあった時は「自分を守る」を最優先に。2011年の震災でわたしは友人を亡くました。わたしよりずっとずっと歳下でした。旅先で偶然、再会し「今度、会いに行くね」と言って別れた半年後の出来事でした。

    怖がりすぎたり、心配しすぎることなく、でも「備える」。そのために、時々、見直す。必要なものを確認する。さらにこれからは自分と飼いねこの年齢を加味する(お子さんやご高齢のご家族がいる方もそうですね)。忘れないようにしたいことです。

    画像: 防寒対策の湯たんぽ

    防寒対策の湯たんぽ


    画像: ものを増やしたくない気持ちと防災対策を両立させるには?

    広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
    エッセイスト、設計事務所共同代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、瀬戸内を経て、2023年から再び東京在住。現在は、執筆のほか、ホテルや店舗、住宅などの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、あたらしい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)、最新刊は『60歳からあたらしい私』(扶桑社)。インスタグラム:@yukohirose19



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