(別冊天然生活『暮らしを育てる台所2』より)
島暮らしとともにはじめた野菜づくり。ひたむきに畑と向き合い、収穫へ
15年前、東京から福岡の能古島に移住したエッセイストの檀太郎さんと晴子さん。

台所からベランダに出られ、海が一望。対岸に福岡の市街地が広がり、博多湾クルーズの花火が冬にも上がるそう
畑では、そら豆やとうがらし、玉ねぎ、ハーブまで、数多くの野菜を育てています。

枝先になる実は3個を残して摘果。1本の木に100個ほどなり、ここには13本。大仕事だけど「みずみずしく美味、食べてほしいと思う」
そら豆を畑で育てるのは豆板醤をつくるため。
そら豆は上向きにさやが付くが、ふくらんで下に垂れたら収穫のタイミング
紫玉ねぎやビーツ、にんにく、パクチーなど、檀家の台所に欠かせない、さまざまな野菜を栽培。晴子さんの畑では季節の花も育てる

口にしてなめらかさに驚いた。豆のうま味があって市販品とはひと味違うおいしさ。
とうがらしオイルは、いろんな品種によって味の違いが楽しめるので種をまいて育てます。
ベランダでは今年の苗が待機中。やることは尽きません。

愛犬ネロが畑まで一緒に来てくれた
「素敵な田舎暮らしと思われるかもしれないけど、実際は大変。水面を優雅に動いて水中では足をばたばたさせている、白鳥と同じ。80代を迎えて、持ち時間は少なくなっていく。こうして人生終わっていくのかなと思うけれど。待っている人がいると思うと、やっぱりまたつくってしまうのよね」
帰り際、「近くまで来たら寄ってね」と、ごく自然に声をかけてくださる。
そうして数多(あまた)の人と食卓を囲み、ご縁をつないでこられたのだ。つくって、食べて、生活はつづく。

イタリアのトマト、サンマルツァーノなど、珍しい品種は、種を芽吹かせて苗づくりから始めることも。「濡れたペーパーの間にはさみ、ポリ袋に種を入れて、胸元に入れておくの。そのうちに白い小さなつのが出てくるのよ」と愛おしそうに話す、晴子さん。「これから植えるというときが一番楽しいかもね」
本記事は、別冊天然生活『暮らしを育てる台所2 』(扶桑社ムック)からの抜粋です
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本書には、12軒の台所が登場します。
そのどれもに共通するのは、日々の暮らしが息づいていること。
トントントン、ザクザクザク……。いつの間にか、体に染みついた動きで料理が完成し、さっきまで、慌ただしかった気持ちが落ち着いていく。
家族や、遊びにきた友人や仲間と調理の作業をリレーしたり、味見をお願いしたり、最近あった出来事を報告し合いながら、わいわいにぎやかに料理し、台所に立つ。
支えられたり、笑顔になったり。たくさんの時間を台所で過ごし、ごはんをつくる。その小さな幸せを積み重ねることで、豊かな暮らしは生まれるのでしょう。
台所は、私たちの「暮らし」そのものなのです。
<撮影/大森今日子 取材・文/宮下亜紀>
檀 太郎・晴子(だん・たろう、はるこ)
共にエッセイスト。太郎さんは作家・檀一雄の長男でCFプロデューサーとしても活躍してきた。2009年福岡の能古島へ移住。太郎さん最新刊『檀流・島暮らし』(中央公論新社)、晴子さん『檀流スローライフ・クッキング』(集英社)など著書多数。