• 農とアートを軸に、町にゆるやかに開かれた福祉を実践してきた日中一時支援施設「さんわーく かぐや」。いま、見いだしつつある福祉観とは。今回は、「かぐや」が新たに開いた拠点「駅前かぐや」を通して、地域とのつながりや、一人ひとりの歩むペースを尊重する新しい福祉の形を紹介します。
    (『天然生活』2023年9月号掲載)

    人とのつながりが生活の喜びにつながる

    2022年春、日中一時支援施設「さんわーく かぐや」の最寄り駅、善行駅のすぐそばに、もうひとつの小さな事業所「駅前かぐや」が開所しました。

    目印は、軒先に立つ愛らしい焼きいも屋台。

    「かぐや」の理事長で木工作家の藤田靖正さんとともに構想段階から関わってきた所長、澤野亮介さんは、

    「かぐやは、体を動かし、体を整える回復の場所。駅前かぐやは、町での自立へのステップ」

    と、ふたつの事業所の性格の違いを語ります。

    画像: 「駅前かぐや」の名物、焼きいも屋台は、愛らしい手づくりののぼりが目をひく。右手の階段の上が、駅前かぐや

    「駅前かぐや」の名物、焼きいも屋台は、愛らしい手づくりののぼりが目をひく。右手の階段の上が、駅前かぐや

    「駅前」は、メンバーおのおのにできることと、町の人が必要としていることを、仕事というかたちでつなぐ場所。

    焼きいも屋台も、販売自体を目的としているのではなく、障がいのある人たちが地域の人とつながるための、いわばアンテナなのだと。

    画像: 何でも自分たちでつくるのが、さんわーく かぐやのスタイル。飾られた額もみんなお手製

    何でも自分たちでつくるのが、さんわーく かぐやのスタイル。飾られた額もみんなお手製

    現在、「駅前」では3つの飲食店と提携し、メンバーが清掃などの仕事に赴いているほか、看板のデザインや制作の請け負い、地元農産物の店頭販売、繊細なアートの力を生かした商品づくりなど、多様な個が、地域のだれかの役に立つ機会が生まれつつあります。

    画像: シルクスクリーンのデザインも自分たちで

    シルクスクリーンのデザインも自分たちで

    「障がいのある方たちは、生活圏が狭くなりがちです。つながる人を増やすことが、生活の喜びにつながりますし、社会に参加し、任されることでしか得られないものもある」と語る澤野さん。

    こぢんまりとした事業所だからこその、居場所としての安心感を保ちつつ、一人ひとりの自立への一歩をていねいにサポートしています。

    画像: 「駅前かぐや」には一日に5人ほどが通う。メンバーのひとりが仕上げの作業をしていたのは、美容院から制作を依頼された看板

    「駅前かぐや」には一日に5人ほどが通う。メンバーのひとりが仕上げの作業をしていたのは、美容院から制作を依頼された看板

    それは、障がいの種類や程度、障害者手帳の有無などでは計り知れない生きづらさを抱える人たちにとって、「大規模な就労支援事業所だけでなく、個性ある小さな事業所が地域にいろいろあった方がいい」と考えてきた藤田さんの新たな一歩でもあります。



    <撮影/林 紘輝 取材・文/保田さえ子>

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



    This article is a sponsored article by
    ''.