(『天然生活』2024年11月号掲載)
人を育て、暮らしを伝える。ギフトを循環させていく
高知県香美市の、山のてっぺん。布作家の早川ユミさんと夫で陶芸家の小野哲平さんが、自然に抱かれたこの場所に暮らし始めたのは、1998年のことです。
ほどなく畑を始め、日本みつばちを飼い、ついに6年前からは田んぼも。

「しら・たま・だんご」と名づけた3枚の田んぼでは、今年からインド米「バスマティライス」の栽培も始めた
「ここで自分で食べものをつくるようになってからより一層、いわゆる『経済』の大きな流れに疑問をもつようになりました。だってここでは、お金を介在しなくても、いろんなものがめぐって、日々を豊かにしてくれるから」

「料理はもちろん、どんな器にどんなふうに盛りつけたらおいしく見えるかだって、美しさを学ぶ大切な感覚」
とくに「自然」という大きな資源は人々のつながりのなかで守り、わけあうもの。
その事実に気づかせてくれたのは、お米づくりへの挑戦でした。

「家で使った水は少なからず田んぼに注ぎ込むし、私たちの田んぼで使った水は、下の田んぼへとつながっていく。お米を育てることで、そのことを一層意識するようになったんです」

昼食は早川さんと哲平さんそれぞれの弟子が順番に料理し、食卓を囲むのが習慣
いまでは、できるだけ水を汚さないよう、食事のあとはスクレイパーでお皿の汚れをあらかた落としてから皿洗いをするのが習慣となりました。

タイのちゃぶ台「カントーク」はサッと出すだけでお茶飲みや集いの輪が生まれるので重宝。新入り猫「おこめ」も輪の一員に
新しい暮らしの形
お米づくりから地域とつながる
2018年から、「ずっと願っていた」お米づくりに着手。

この日もみんなで畑仕事。田んぼでとれる500kgのお米が家族と弟子たちのちょうど1年分のお米になる
「自分でお米を育てるようになって、私たちの家が最上流に位置していることや、地域の人たちと水を分け合って暮らしていることを一層意識するようになりました。ご近所の方も田んぼが田んぼとして守られるのがうれしい様子で、よく話しかけてくれます」

畑で収穫の盛りを迎えたミニトマト、ピーマン、オクラ。旬の恵みは地域の人へおすそわけすることも
<撮影/公文美和 取材・文/玉木美企子>
早川ユミ(はやかわ・ゆみ)
1980年代よりアジアを旅し、山岳民族たちの生活の知恵と美に触れて「土着の感覚」での服づくりを行う。高知の山間に暮らし、小さな果樹園や田畑を耕す。日々のレシピからフェミニズム、新しい経済のありかたまで幅広い著作のファンも多い。『種まきびとの絵日記 はるなつあきふゆ 増補改訂版』(扶桑社)が発売中。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです




