(『天然生活』2023年9月号掲載)
本が運び、つなぐ。不思議な縁に囲まれて
古書店や貸本屋の多い東京・三軒茶屋で育ち、子どものころから本は大切な友だった萩尾エリ子さん。いまも時間を見つけては、ページの向こうへと旅に出かけます。
「蓼科に移り住んでから、家族がまだ眠っている早朝を読書時間に当てることが習慣になりました。とくに子育てが忙しかったころは、まだ薄暗い部屋で数ページでも本の世界に触れることが、何よりのリフレッシュ法でした」
ミステリーから詩、随筆まで、広く深い読書遍歴はときに不思議な縁を運んでくることも。
「『昔日の客』の初版本は、著者のご子息で音楽プロデューサーの関口直人さんからいただいたもの。学生時代に、当時私と夫が青山で営んでいた店でシャンソンを歌ってくれていたんです。

『昔日の客』関口良雄 著/夏葉社
その後も交流が続いた直人さんにある日、何気なく『探偵・竹花』の藤田宜永さんの話をすると、なんとふたりはパリで交友があったことがわかって……。そんなふうに、本が現実世界にも物語をもたらしてくれることが、ときどきあるんです」

『探偵・竹花 帰り来ぬ青春』藤田宜永 著/双葉社
いまでも「リビングや枕元に7、8冊は積んでおかないと落ち着かない」ほど、本とのつきあいは深まるばかり。それぞれがまとう音や香りに敏感でいたいから、音楽もアロマもつけずに楽しみます。
「どこにでも行ける、だれにでもなれる。読書は私たちに自由を与えてくれます。そして、たくさんの書物に触れることは、たくさんの言葉を養うこと。心に降り積もった言葉によって、つづる文章や、訪ねてくださるお客さまと交わすひとことが少しでも豊かなものになっていたらと願っています」

キャンドルを灯したテーブルに、読みたい本を何冊も積み重ねて。「寄り道も楽しみ。読み終わったら裏返し、山を崩していきます」
萩尾さんの読書に欠かせない“おやつ”
銀座ウエストの「リーフパイ」

原材料はバター、小麦粉、砂糖、卵だけ。素材のよさと手間ひまがにじむ、「銀座ウエスト」の代表作。
「母の好物で、東京へ出かけたときのお土産の定番でした。私は読みながらは食べないので、小休止のためのおやつです」
〈撮影/寺澤太郎 取材・文/玉木美企子〉
萩尾エリ子(はぎお・えりこ)
ハーブショップ「蓼科ハーバルノート・シンプルズ」主宰。ナード・アロマテラピー協会認定アロマ・トレーナー。日々、植物の豊かさを伝えることを喜びとする。著書に『香りの扉、草の椅子』(扶桑社)、『八ヶ岳の食卓』(西海出版)、天然生活の人気連載をまとめた『あなたの木陰』(扶桑社)など。
https://www.herbalnote.co.jp/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



