傷んでしまった洋服も、手直しすれば特別な「一点もの」に
「昔から、ものをなるべく長く、大切に使いたいという思いがあります。せっかく気に入って着ていたのに、破いたり汚してしまったりするとすごく落ち込んでしまいますが、こうして直せばお直しの跡も味になって前よりも愛着が湧くというか、それもかわいいと思えるのがリメイクの魅力ですよね」
仕事や家事が一段落したあと、ドラマや映画を見ながら少しのあいだ手を動かす時間は、井上さんにとってリフレッシュの時間にもなっているようです。
「巾着など小さなものなら5、10分でつくれます。針と糸とはさみがあれば外出先でも気軽にできますし、電車やバスの移動時間に少し進めるだけでも気分転換になりますよ」

井上さんの冬のリメイクの楽しみ4つ
リメイクの楽しみ1
洋服や靴下を「ダーニング」

かかとが擦り切れた靴下や穴の空いてしまったニットは、ヨーロッパの伝統的な補修方法のひとつである「ダーニング」でかわいくお直し。穴をふさぐための糸の色の組み合わせや形も、デザインの一部になり楽しい。

穴の空いた靴下は色とりどりの糸を使って

擦れやすいセーターの袖部分を補修

繊細な素材のワンピースは同系色の糸でさりげなく

15年選手の白シャツ。襟元の補修は柄のように
「一般的なダーニングは専用の木型を使いますが、ペットボトルや電球など気軽に代用できます。小さなものであれば移動時間の合間に繕うこともできますよ。白いシャツは直しながら15年くらい着ています」

ペットボトルを型代わりに使い、外出先でも気軽に
リメイクの楽しみ2
はぎれをつないで「ポジャギ」風のカーテンに
洋服づくりで余った小さな布を使って、韓国のポジャギのような透け感のあるパッチワークのカーテンに。民藝店で見かけた布を参考に、井上さんのブランドCanako Inoueのオリジナルテキスタイル「鏡の花」のはぎれを縫い合わせました。

Canako Inoueのテキスタイル「鏡の花」のはぎれを縫い合わせたカーテン
「これは引っ越し前につくったものですが、新居では寸法が足りなくて継ぎ足したんです。少しずつサイズ調整できるところもリメイクの魅力ですね」

市販のカーテンテープとフックを取り付ければ、お好みの布でかんたんに
リメイクの楽しみ3
はぎれを使った巾着とがま口

10cm角程度のはぎれが2枚あれば、縫い合わせて、巾着やバネ口金のがま口ができ上がり。工程がシンプルなので、すき間時間につくりやすい。
こちらはお菓子やコスメなど、小さな小物を持ち歩くのにちょうどいいサイズ感で、Canako Inoueの商品としても人気のアイテム。
リメイクの楽しみ4
手づくりの針山

写真左の針山は、山梨のかご作家Basket Moonさんのかごを使って、オリジナルのテキスタイルとフェルトを詰めた作品。作業机にぽんと置いておくとインテリアとしても活躍。
右の小さないちご柄の針山は、なんと小学生のときに井上さんが手づくりしたものだそう。
「祖母や母の影響で、小さな頃から洋服や裁縫が身近にあって。これは当時雑誌に載っていたつくり方を見ながらつくった思い出の品。いまも現役として大事に使っています」
日本でも根づく「ぼろ」の文化を大切に
「ダーニングはヨーローパ由来のものですが、日本の東北地方にも縫ったり継ぎ合わせたりしながら布を長く使う『襤褸(ぼろ)の文化』が根づいています。寒い地方では、衣服の補強や防寒のために、布をたくさん重ねて刺し縫いして、丈夫な布を育てていたそうです。物が乏しかった時代だったからこそ生まれた『物を大事にするこころ』を大切にしていきたいですね」と井上さん。
使えるもの、あるものに別の価値を宿しながら長く大切に使う。そんな思いをもって手を動かす時間は、寒い季節にあたたかな豊かさを運んできてくれそうです。
【イベント出店のお知らせ】
松屋銀座7階 デザインギャラリー1953“冬を楽しむ贈り物”

会期:2025年11月19日(水)~25日(火)
営業時間:11:00~20:00 ※最終日は17時閉場
場所:松屋銀座 7階 デザインギャラリー1953(東京都中央区銀座3丁目6−1)
詳細は井上さんインスタグラムから。
〈撮影/林紘輝〉
井上加奈子(いのうえ・かなこ)
テキスタイルデザイナー、イラストレーター。多摩美術大学テキスタイルデザイン専攻で染織を学ぶ。2014年にテキスタイル・アパレルブランド「Canako Inoue」を立ち上げ、国内生産のオリジナルテキスタイルを用いた洋服や服飾雑貨などを展開。自社製品の百貨店・イベントでの販売に加え、メーカーや小売店とのコラボレーション、ノベルティ制作などを行う。やわらかな線とやさしい色彩の作品が幅広い層に人気。
インスタグラム@canakoinoue





