• 住まいと仕事を、ひとつの場所に。そこには、生活に寄り添いながら“ものづくり”に向き合う豊かな時間がありました。築50年の古い一軒家をDIYで改造し、お気に入りの場所で創作を続けるテキスタイルデザイナー・井上加奈子さんのアトリエを訪ねました。

    暮らしのまんなかに「ものづくり」を

    ふわりと金木犀の香り漂うのどかな住宅街。その一角に、築50年の古い一軒家をセルフリノベーションした、井上さんの住まいとアトリエがあります。

    画像: 光がたっぷり入るアトリエ

    光がたっぷり入るアトリエ

    ものづくりの街、東京・蔵前の「台東デザイナーズビレッジ」を拠点に活動していた井上さんが、縁あって練馬の古い一軒家に拠点を移したのは3年前のこと。

    「以前のアトリエは入居している他の作家さんと情報交換ができて貴重でしたが、自宅から通っていたため、必要なときに道具が手元になかったり、コロナ禍で移動が難しい時期もあったりして、“家とアトリエを一緒に”と考えるようになりました。移動することで切り替えができてアイデアが生まれる方もいると思いますが、私には暮らしの延長線でものづくりをするほうが合っていたみたいです」

    アトリエには、自身のブランド「Canako Inoue」のテキスタイルがカーテンやのれんなどに形を変え、日々の暮らしの一部としてやわらかに溶け込んでいます。

    画像: 暮らしのまんなかに「ものづくり」を

    井上さんが手がけるテキスタイルは、手描きの質感を生かした図案をベースに、プリントや刺しゅうで表現したオリジナルデザイン。やわらかな世界観とやさしい色使いが特徴で、植物や動物、風景などをモチーフにすることが多いそうです。

    画像: イラストレーターとして、テキスタイル以外のプロダクトのデザインも手がける。愛らしい猫モチーフのモビールも井上さんの作品

    イラストレーターとして、テキスタイル以外のプロダクトのデザインも手がける。愛らしい猫モチーフのモビールも井上さんの作品

    「旅先や暮らしの中で見つけた風景や、素敵だなと目に止まったものを思い出しながらスケッチをすることが多いです。アトリエは光が心地よく入り、のんびりとした空気が流れているので、作品が空間自体にうまく調和しているような気がします。自然光の中での作品撮りやオープンアトリエの場所としても、使いやすくなりました」

    画像: 日常の風景を切り取るように作品をディスプレイして、定期的にオープンアトリエを開催

    日常の風景を切り取るように作品をディスプレイして、定期的にオープンアトリエを開催

    仕事しやすい環境をイメージしながら、古民家暮らしを整える

    近隣に住む友人の紹介で出合ったこの家は、賃貸だけれど自由に改修が可能。1階の2部屋をアトリエに、2階の1部屋を居住空間にとイメージしながら、人生ではじめての大がかりなリフォームに取り組みました。

    画像: 近隣の住民や友人の手を借りながら、自身でも壁を漆喰でぬったり、床の塗装にもチャレンジ

    近隣の住民や友人の手を借りながら、自身でも壁を漆喰でぬったり、床の塗装にもチャレンジ

    「古い家に住み慣れている近所のみなさんはDIYが得意で。作業をしやすくするためにこんな場所があったらいいな、こんな物を収納できたらいいなと相談すると、経験をもとにたくさんのアイデアをいただきました。大きな棚をつくっていただいたこともあり、本当に助かりました。

    体力仕事のDIYで心が折れそうになった日もあったけれど、色の組み合わせを考えながら空間をつくりあげることはデザインを考えることとも共通していて、楽しかったです」

    アトリエスペースを拝見

    そんな井上さんのものづくりのインスピレーションが生まれるアトリエと、大切な仕事道具を見せていただきました。

    図案スペース

    1階の1部屋は、図案のデザインや、事務作業を行うデスクが置かれたスペース。水彩やアクリル絵の具での色ぬりや、数年前からはじめた陶芸作品の絵付けなども行っています。

    画像: 図案スペース

    お気に入りの仕事道具

    画像1: 築50年「賃貸の古民家」をDIYで改造、職住一体のアトリエに。テキスタイルデザイナーの“ものづくりの現場”を拝見/Canako Inoue・井上加奈子さん

    いただきもののかわいいお菓子の缶は、絵の具やペン立て、文房具などを入れる箱として再利用。

    画像2: 築50年「賃貸の古民家」をDIYで改造、職住一体のアトリエに。テキスタイルデザイナーの“ものづくりの現場”を拝見/Canako Inoue・井上加奈子さん

    使う頻度の高い絵の具類は引き出しに。ひと目でわかるように絵の具のふたに色をぬるやり方は、美大時代からの習慣。

    画像3: 築50年「賃貸の古民家」をDIYで改造、職住一体のアトリエに。テキスタイルデザイナーの“ものづくりの現場”を拝見/Canako Inoue・井上加奈子さん

    色鉛筆をカラーチップ代わりに、組み合わせを考えることも。

    裁断スペース

    隣の部屋には、裁断や発送作業を行う大きな作業台とミシンなどを設置。トルソーに合わせて、工場や職人さんに依頼する前のサンプルの試作をつくったり、縫製まですべて自分で仕上げることもあります。

    画像: この日は、布とワタを縫い合わせてダウンベストを製作

    この日は、布とワタを縫い合わせてダウンベストを製作

    はじめての古民家暮らしは、楽しみも苦労もたくさん

    自分だけのお気に入りの場所をつくりあげた井上さんに、古民家暮らしについて聞くと、「噂どおり、夏は暑くて冬は寒い。とくに冬の寒さは下から冷えるようで、とてもこたえます」と笑顔で話してくれました。

    厳しい冬を迎えるために、知恵や楽しみも身につけたそうです。カーペットの間に断熱シートを敷いたり、カーテンの内側にビニールカーテンをつけて冷気を防いだり。足元を冷やさないように、靴下やレッグウォーマーを履くなど、暮らしを快適にするアイデアは日々アップデートされていきます。

    画像: はじめての古民家暮らしは、楽しみも苦労もたくさん

    「家にいるけれどほぼ屋外のような感覚ですが(笑)外とゆるやかにつながっていることで、季節の移ろいや時間の流れをより身近に感じるようになった気がします。朝起きて、まずはカーテンを開けて庭の景色を楽しむ。そんな時間がとても好きです」

    大きな窓から光がたっぷり入るところが井上さんのお気に入り。継ぎ接ぎで仕立てたオリジナルテキスタイルのカーテン越しに、やわらかな日差しが部屋をやさしく照らします。

    【イベント出店のお知らせ】
    松屋銀座7階 デザインギャラリー1953“冬を楽しむ贈り物” 井上加奈子さん松屋“冬を楽しむ贈り物”
    会期:2025年11月19日(水)~25日(火)
    営業時間:11:00~20:00 ※最終日は17時閉場

    場所:松屋銀座 7階 デザインギャラリー1953(東京都中央区銀座3丁目6−1)
    詳細は井上さんインスタグラムから。



    〈撮影/林紘輝〉

    井上加奈子(いのうえ・かなこ)
    テキスタイルデザイナー、イラストレーター。多摩美術大学テキスタイルデザイン専攻で染織を学ぶ。2014年にテキスタイル・アパレルブランド「Canako Inoue」を立ち上げ、国内生産のオリジナルテキスタイルを用いた洋服や服飾雑貨などを展開。自社製品の百貨店・イベントでの販売に加え、メーカーや小売店とのコラボレーション、ノベルティ制作などを行う。やわらかな線とやさしい色彩の作品が幅広い層に人気。
    インスタグラム@canakoinoue



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