50代からの食事に役立つ「つくりおき」
長らく作り置きは苦手だったが、子どもふたりが巣立ってからいくつか作るようになった。食が細くなった中年夫婦ふたり分を、少量ずつ毎回一から作るのが面倒になったからである。
主菜だけ作り、付け合わせや小鉢の副菜は二〜三日分まとめて作っておいたものを使うと時短になり、彩りや栄養バランスもぐっとよくなる。
忙しい子育て期に作り置きは活躍するものと思っていたが、たくさん食べられず、むしろものぐさ度の加速する、今のほうが私には向いている。

ポイントは、えいやっと土日にまとめて作るのではなく、平日の朝、仕事前にちゃちゃっとやること。少しでも負担に思ったら続かないと、自分の性格をわかっているので無理はしない。
朝は、行動が速い上に元気もある。仕事を控え無意識のうちに気が急(せ)いているので、手が速く動くのだ。
今朝は、一、きのこ三種の塩蒸し、二、人参とささみのコールスロー風サラダ、三、アスパラバターソテー、四、ズッキーニのナムルの四つを作った。どれも一〇分足らずだ。
料理ではなく脇役の「素材」として使う
作り置きとは、完成したおかずのことだけをさすとは限らない。きのこの塩蒸しのように、仕上げ前の作り置きも応用自在で便利だ。
これを青菜と和えたり、塩麴漬けしたささみと和えたり、肉のソテーの付け合わせにしたり、白身魚の上に乗せ、醬油をたらり。あるいはホイル蒸しにしても、だしが出ておいしい。
料理ではなく、脇役の“素材”として使うのだ。

作り置きは可視化できるイワキガラスに


きのこは加熱するだけでだしが出て、安くて食物繊維とミネラルがたっぷり。地味で茶色いシンプルな見た目だけれど、使い勝手ナンバーワンの万能選手なのである。
それと、体に良いものを作ったぞ、いつでも冷蔵庫にあるぞという実感が、さりげなく気持ちを上げてくれる。この隠れた効能も大切だ。
* * *
作り置きをすると、その料理を起点にメニューを考えられるので、大きな目で見るとこれも時短になる。料理でいちばん時間がかかるのは、じつは献立を考えることではないか。だから大変便利なのである。
よーし料理をまとめて作っておくぞと思うと身構えるが、簡単な下ごしらえレベルなら、仕事前の朝でもささっとすませられる。
料理は気持ちの持ち方次第なのだなあとしみじみ思う。
「大変」「私にはとてもできない」「飽きるに違いない」「そんな時間はない」と決めつけていることが、自分にはまだまだありそうだ。
年齢やライフスタイルや家族構成の変化とともに、食生活は変わる。
今のところ私には絶対無理と思っている小豆を煮ることとケーキ作りも、案外数年後には嬉々としてやっているのかもしれない。そんな自分が少し楽しみでもある。
▼大平一枝さんの“台所”の記事はこちら
〈写真/大平一枝〉
※本記事は『台所が教えてくれたこと ようやくわかった料理のいろは』(平凡社)からの抜粋です。
◆「台所」という空間で探しつづける、自分に合った暮らしと料理のいろは◆
独身時代は暮らしのことにまったく無頓着で、年に二、三度しか味噌汁をつくらなかったという大平一枝さん。
結婚してからは、ふたりの子どものために必要に迫られて料理をし、子どもが巣立ってからは、時には小さな不満を持ちながらも、夫と負担を分け合って暮らす日々。
「台所という生活の楽屋で、自分に合ったやり方で疲れないものだけを、のんびり探しつづければいい」と話します。
本書は、十余年にわたり“台所”を取材して歩いてきた大平さんが、初めて自身の台所とくらしをありのままに綴ったエッセイ集。
人生とともに変化する食や価値観について、見つめたくなる1冊です。
【もくじ】
● 第1章 ようやく料理のいろはが見えてきた
・作り置きクロニクル
・収納迷子からの卒業 など
● 第2章 大人のテーブル、忘れられない味
・カレーの階段
・あきらめて楽になったこと など
● 第3章 台所はいつも忙しい
・とんちんかんな家事
・長生きを願う台所の神 など
● 第4章 忘れられない台所
・手触りは消えても
・八六歳の外国製食洗機 など
● 第5章 台所は生きている
・長寿の両親と発酵食
・台所は生き物のように など
大平一枝(おおだいら・かずえ)
1964年、長野県生まれ。編集プロダクションを経て1995年に独立。市井の生活者を独自の目線で描くルポルタージュコラムおよびエッセイを執筆。2013年から続く連載「東京の台所」(朝日新聞デジタルマガジン『&w』)が大きな反響を呼び、書籍や漫画に展開されている。著書に『ジャンク・スタイル』『男と女の台所』『ただしい暮らし、なんてなかった。』(以上、平凡社)、『ふたたび歩き出すとき 東京の台所』(毎日新聞出版)、『注文に時間がかかるカフェ——たとえば「あ行」が苦手な君に』(ポプラ社)、『そこに定食屋があるかぎり』(扶桑社)など多数。本書は自身の台所について著す初めての書籍となる。
*連載「東京の台所」はこちら:東京の台所2







