寝はじめると集まってくる猫たち
わが家には、元保護猫が十匹います。
毎日がにぎやかで、あたたかくて、たしかにしあわせです。
けれど、困ったこともあります。
そのひとつが、寝るときの「石抱きの刑問題」です。
夜、布団に入ったばかりのころは、まだ平和です。
猫たちはそれぞれ好きな場所で毛づくろいをしたり、爪を研いだりしています。
ところが、私たちがうつらうつらしてくると、気配が変わります。
――来る。
どこからともなく、甘えん坊の全(ぜん)が走ってきます。助走をつけるようにして、どん、とお腹に着地。

「布団が整えられた!」「いくぜ!」の猫たち
細身で小柄なこころなら、まだかわいいものです。けれど、むっちりと育った全は、遠慮というものを知りません。全体重を預けて、ふみふみ。おなかを揉む。
じわじわと尿意がこみあげます。でも、動けません。下ろすなんて、できません。
全身に猫がのると苦しくて寝返りも打てない
やがて、ほかの猫たちも集まってきます。足の上、腕の上、胸のあたり。ぎゅうぎゅうです。
寝返りは打てません。夜中に目が覚めても、身動きひとつ取れません。
毎朝、腰が悲鳴をあげています。
以前、鍼灸院で相談したことがあります。「猫と別の部屋で寝ては?」。やさしい提案でした。
でも、それはできません。

「もう寝ようー!!」のこころ
猫の重みは猫からの信頼の重み
この重みは、信頼の重みです。保護された日から、少しずつ人を信じてくれた証です。
警戒していた子が、安心しきって全体重を預けてくる、その奇跡。
金縛りのように動けなくても。腰が痛くても。私は、毎晩、しあわせを抱いて眠っています。
猫と寝る人のための、やさしい対策
猫と一緒に眠ることは、やめなくていい。
でも、自分の体も大切にしたい。
そんな方へ、わが家で実践している小さな工夫です。
・眠る前の「トイレ最終確認」
うつらうつらする前に、必ずもう一度トイレへ。「まだ大丈夫」は危険です。猫が着地してからでは、動けません。
・小さなクッションで“高さ”をつくる
おなかや腰の下に、薄いクッションをひとつ忍ばせます。猫が乗っても沈み込みすぎず、体への負担が軽くなります。猫も安定するので、意外と喜びます。
・朝いちばんに、伸びる
起きたらすぐ、背中をゆっくり丸めたり反らしたり。三呼吸でいいので、体をほどいてあげます。夜の重みを、朝に持ち越さないことが大切です。
・「しあわせの重さ」と名前をつける
重い、痛い、つらい――ではなく、「今日は3匹コース」「今夜は全フルコース」と、少し笑いに変えてみます。言葉を変えると、心が軽くなります。
猫と暮らすことは、思い通りにならないことの連続です。
でも、その不自由の中に、確かな安心があります。毎晩、石のように重い愛を抱えながら、今日も私は、金縛りのしあわせに身をゆだねているのです。

朝。ブランケットをたたみたいけれど、起きません
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咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」






