※本記事は、ライター・玉木美企子さんの第一エッセイ/俳句集『蝸牛の虫干し』刊行記念お話し会(2026年2月、still room.MEにて開催)の内容を基に構成しています。
大切なときこそ、あふれる言葉を「磨いて、手放す」

――エッセイ集『香りの扉、草の椅子』『あなたの木陰』など、萩尾さんのご著書では蓼科の自然の中で過ごす日々の楽しいエピソードが数多く紹介されています。その一方で、同時に病や別離など、人生におけるたくさんの「ままならぬこと」にそっと寄り添うようなお話も胸に迫ります。どのような想いでそうしたテーマについて綴ってこられたのでしょう。
萩尾 「私にも何かできるかもしれない」、との想いから、八ヶ岳への移住後に精神科病棟と緩和ケア病棟でボランティアを始めました。そして諏訪中央病院では、訪れた人が呼吸を深くして憩えるようなハーブガーデンをつくることにも、長く関わってきました。そうして病院へと足を運ぶなかで、人生には「ままならないこと」が山のようにあることを、たくさん知ったんです。
痛いこと、苦しいこと、つらいことって、どうしても人生にはありますね。そんなときに、ちょっとだけ前を向いたり、元気を振り起こせるよう。そんな願いを込めたお話は、これまで自然と綴ってきたように思います。
――少しずつでも前を向いて、元気を出してもらえたら、との想いがあるとき、萩尾さんはどのような言葉を選ばれますか。
萩尾 内容もさることながら、その「量」に気をつけているかもしれません。文章でも、会話でも、大切なときこそたくさん言葉を尽くすのではなく、選んだ少しの言葉をかけるだけのほうがいいな、って。伝えたいことがたくさん、あふれそうなときほど、「磨いて、手放す」ということを大切にしたいですね。
――いいたいことがあふれそうなときほど、少しにとどめる。
萩尾 そう。ショップでのお客さまとの会話もそうですし、文章で伝えるときはとくに気をつけています。私は作家ではないし、そもそも長い文章を書くことは苦手なんです。ましてや、病や命に関わることは、書けないことのほうが多いですから。
それでも、受け取ったこと、感じたことから生まれる言葉をさらに削ぎ落として言葉を選び、形を変えて、「小さな花束のような文章でなら、伝えられるかもしれない」。そういい聞かせながら、どうにか綴ってきました。
萩尾エリ子さんが言葉を削ぎ落し、形にしてきた「小さな花束のような文章」。
後編では、言葉を超えて心に届く「香りの力」と、人生の最終コーナーをどう過ごしたいか、これからの生き方についてお届けします。
〈取材・文/玉木美企子 写真/古厩志帆〉
萩尾エリ子(はぎお・えりこ)
ハーバリスト。ナード・アロマテラピー協会認定アロマ・トレーナー。日々ショップという場から植物の豊かさを伝えることを喜びとする。著書に、『風の飲みもの、光のおやつ』(扶桑社)など。
* * *





