• 蓼科ハーバルノート・シンプルズを主宰し、日々ショップという場に立つ萩尾エリ子さん。植物の豊かな力を伝え続ける一方で、地域の病院の緩和ケア病棟などでボランティア活動にも長く関わってきました。人生の「ままならぬこと」に直面したとき、言葉を超えて心に届く香りの力についてお話を伺いました。
    ※本記事は、ライター・玉木美企子さんの第一エッセイ/俳句集『蝸牛の虫干し』刊行記念お話し会(2026年2月、still room.MEにて開催)の内容を基に構成しています。

    物語に惹かれ、言葉と香りに溶け合う記憶

    画像: 物語に惹かれ、言葉と香りに溶け合う記憶

    ――言葉と香り、まったく異なるもののようで意外な近さもあり、一方でそれぞれに担える役割の違いもあるんですね。

    萩尾 言葉も香りも、力があるものだから、「どう使うか」の使い方が大切ですね。そして私、日本の薬草や薬木も大好きだけれど、やっぱり西洋薬草に惹かれ続けているんです。それは、西洋薬草をとりまく物語にも魅かれているのだと思います。

    ――ハーブによって生まれる言葉の世界ですね。

    萩尾 そう。そして一方で、物語をきっかけにアロマテラピーの世界をきちんと学んでみると、今度はたんなる魔法やファンタジーのように思えていたお話のなかに、実は化学的にも理にかなったものが多いことに驚かされたりもするんです。

    ――ご著書『風の飲みもの、光のおやつ』(扶桑社刊)には、レイ・ブラッドベリの名作文学『たんぽぽのお酒』に着想を得た『たんぽぽワイン』など、物語から生まれたレシピが登場します。

    萩尾 レイ・ブラッドベリの作品は昔から好きで読んでいたんです。そこではタンポポのワインがおじいちゃんやおばあちゃん、いろいろな人にふわっとエネルギーを与えてくれるということが書いてあって、それがいいな、って思っていたんです。

    だから私、何度タンポポを援護したことか。薬草ではなく雑草と見られているから、自然豊かなところであるほど、嫌われる存在なのよね。でも、本当はちゃんと、力があるの。それに、タンポポのワイン、美しいでしょう。

    そして同時に思い出すのは、蓼科でお店を始めたころのこと。私はよく、タンポポで染色をしていたんです。そしてね、そのころうちで働きたいと言ってくれた女の子が、よく畑でタンポポをたくさん集めて持ってきてくれていたんだけれど、「エリ子さん、たくさん摘めたよ」と持ってきてくれたその子のお鼻に、黄色い花粉がついていてね。なんて素敵、って。

    そういう記憶も一緒に、胸のなかにしまわれていて、タンポポという存在を思うときに言葉の中に含まれていくんです。直接的な言葉でなくてもね。



    〈取材・文/玉木美企子 写真/古厩志帆〉

    萩尾エリ子(はぎお・えりこ)
    ハーバリスト。ナード・アロマテラピー協会認定アロマ・トレーナー。日々ショップという場から植物の豊かさを伝えることを喜びとする。著書に、『風の飲みもの、光のおやつ』(扶桑社)など。

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    『風の飲みもの、光のおやつ 薬草店の幸せなテーブルから』(萩尾エリ子、永易理恵・著/扶桑社・刊)

    画像: 78歳、ハーバリスト・萩尾エリ子さんに聞く“緩和ケア”の現場で見つめた香りの力と「人生最終コーナー」の過ごし方

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