• 蓼科ハーバルノート・シンプルズを主宰し、日々ショップという場に立つ萩尾エリ子さん。植物の豊かな力を伝え続ける一方で、地域の病院の緩和ケア病棟などでボランティア活動にも長く関わってきました。人生の「ままならぬこと」に直面したとき、言葉を超えて心に届く香りの力についてお話を伺いました。
    ※本記事は、ライター・玉木美企子さんの第一エッセイ/俳句集『蝸牛の虫干し』刊行記念お話し会(2026年2月、still room.MEにて開催)の内容を基に構成しています。

    人生に寄り添う、ささやかな言葉と香りの力

    画像: 人生に寄り添う、ささやかな言葉と香りの力

    前編の記事では、萩尾エリ子さんに本の虫だった幼少期から、広告の世界を経て蓼科へ移住したこれまでの歩み、そして大切なときほどあふれる言葉を「磨いて、手放す」という、小さな花束のような言葉とのつきあい方について伺いました。

    https://tennenseikatsu.jp/_ct/17849680

    後編となる本記事では、人生の「ままならぬこと」に向き合うなかで知った、言葉を超えて心に届く「香り」の力についてお届けします。

    特別な時間をもたらしてくれるコーヒーの香り、バニラの香り

    画像: 特別な時間をもたらしてくれるコーヒーの香り、バニラの香り

    ――「言葉を小さな花束に」とのお話でしたが、萩尾さんは実際に、小さな草花のブーケをおつくりになりますね。

    萩尾エリ子さん(以下、萩尾) そう、緩和ケア病棟に行くときにも、主にショップの森で芽吹いた草花を小さく束ねてもっていくんです。

    大きな花束って、花びんを探したり日々水を替えたり、負担が大きいでしょう。小さければ、ジャムの小びんなんかを花びんがわりに用意して持っていけばいいから負担は少なくて、でも、触るといいにおいがして。草の湿度や、やわらかさもちゃんと感じられる、そうしたことがとても大事だと思っています。

    とくに、「いいにおい」はとても大切。それも、強いにおいではやっぱりダメで、さりげないくらいの香りね。

    ――そんなときは、言葉さえ手放して、草花の香りに想いを託すようですね。

    萩尾 そう、言葉では届かないような場所にも、「香り」ならば届いてくれることがあります。それも、「ままならぬこと」に向き合うなかで知ったことです。

    たとえば、緩和ケア病棟でコーヒータイムを開催したときなどは、室内がコーヒーの香りで満ちてくるとともに、みんなの表情がだんだんゆるんでくるんです。病院だったことを忘れて、あちこちでおしゃべりがはじまって、カフェの店内みたいに空気が動いて。とってもよい時間になるんです。

    そして、飲み込むことが難しくなった方に「香りのおやつよ」と携えていったのは、バニラのエッセンシャルオイル。バニラの香りって、懐かしいおやつの時間を思い出すでしょう?

    実はアロマの世界でバニラは「おくるみの香り」といわれ、人をそっと包み込んでくれる効果があるとされているんです。

    遠い昔、母親のいない乳児を育てる西欧の施設では、抱っこしてあげる手が足りないときにバニラの香りを近くで香らせてあげたそうです。



    〈取材・文/玉木美企子 写真/古厩志帆〉

    萩尾エリ子(はぎお・えりこ)
    ハーバリスト。ナード・アロマテラピー協会認定アロマ・トレーナー。日々ショップという場から植物の豊かさを伝えることを喜びとする。著書に、『風の飲みもの、光のおやつ』(扶桑社)など。

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    『風の飲みもの、光のおやつ 薬草店の幸せなテーブルから』(萩尾エリ子、永易理恵・著/扶桑社・刊)

    画像: 78歳、ハーバリスト・萩尾エリ子さんに聞く“緩和ケア”の現場で見つめた香りの力と「人生最終コーナー」の過ごし方

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