• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。今回は、思い描いていた「おしゃれな部屋」とは少し違う、猫たちと一緒につくったわが家のインテリアのお話です。

    猫がいるから、わが家はかわいい

    素敵な部屋に暮らしたい。

    いまの家に引っ越してきたとき、私はそう思っていました。

    画像: 猫のための謎の箱

    猫のための謎の箱

    雑誌に出てくるような、すっきりした部屋。飾り棚には、お気に入りの小さなオブジェ。ソファには、ふっくらしたクッション。テレビまわりのリモコンなんかも、生活感が出ないよう、きれいに隠して。

    「よし、今度こそ、おしゃれに暮らそう」そう思っていたのです。

    ところが。

    猫がいっぴき増えました。もういっぴき増えました。また増えました。そうして気がつけば、わが家には元保護猫が10匹。

    10匹です。こうなると、家というものは、もはや人間の夢だけではつくれません。

    たとえば、飾り棚。ここには小さな花びんや、旅先で見つけたかわいい置物なんかを飾ろうと思っていました。

    ところが、ひとつ置けば猫が落とす。ふたつ置けば猫が落とす。落として、落として、落としたあと。空っぽになった棚のまんなかに、猫。ちょこん。

    画像: ここに飾っていた時計は落とされました……

    ここに飾っていた時計は落とされました……

    ......あなたがオブジェだったの?

    しかも、妙に完成度が高い。こちらが何時間もかけて雑貨を並べるより、猫が一匹そこに収まったほうが、どう見てもかわいいのです。

    テレビの下にも、リモコンや細々したものを隠すための空間があります。

    人間としては、「生活感を消す収納スペース」のつもり。

    猫としては、「ちょうどいい洞窟」。

    気づけば、リモコンを押しのけて猫が入っています。こちらがテレビを見ようとして、「リモコンどこ?」と探すと、その奥からふたつの目が光る。リモコンを隠したかっただけなのに、リモコンごと猫に隠されました。

    ソファだってそうです。買ったばかりのころは、ふっくらしていたクッション。その上で丸くなり、伸びをし、毛づくろいをし、ときどきみんなが大集合し、いまや、ぺしゃんこ。

    画像: クッションが見えない! ソファは猫たちのもの

    クッションが見えない! ソファは猫たちのもの

    おしゃれなインテリア雑誌なら、たぶん交換を勧められるでしょう。

    でも私は、そのぺしゃんこのくぼみを見ると、「あ、ここでだれか寝てたな」と思います。

    猫の毛がついたブランケット。爪あとが残ったソファ。なぜか床に転がっている大量の段ボール箱。
    完璧な部屋からは、ずいぶん遠くなりました。それでも最近、思うのです。「素敵な部屋」というのは、ものがきれいに並んでいる部屋だけではないのかもしれないな、と。

    棚のオブジェの代わりに猫がいて。クッションには、その子が眠った形が残っていて。窓辺には、猫が外を眺めるための小さな椅子が置かれている。

    人間が考えていた完成図を、猫たちが勝手に書き換えていく。

    そして、そのたびに、「ああ、こっちのほうが、うちっぽいね」と思えるようになりました。

    画像: 人間がもたれられない背もたれ

    人間がもたれられない背もたれ

    モデルルームみたいな家には、たぶんもう一生なれません。

    でも、どこかのだれかの家では絶対につくれない、猫10匹と私たちだけの部屋にはなりました。

    今日も飾り棚には、オブジェの代わりに猫。しかも本人は、ずいぶん得意げです。

    まあ、いいか。世界にひとつしかないインテリアだもの。

    画像: 置きものですか?

    置きものですか?

    ◇ ◇◇ ◇◇


    画像: 完璧を目指さない

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ、大阪在住。作家、家族療法カウンセラー。夫と10匹の元保護猫と暮らす。心の病や生きづらさを抱えるなか、不治の病をもつ一匹の猫との出会いをきっかけに、「命は、生きているだけで愛おしい」ということを知る。以来、生きづらさのなかにある小さな希望を、ノンフィクションや小説、エッセイに綴りつつ、NHKの福祉番組への出演、全国での講演などでも活動。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日』(KADOKAWA)など。

    ◆note:https://note.com/sakiseri

    ◆ブログ「ちいさなチカラ」

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    「ひとりきりでも、揚げたてコロッケはおいしいけれど、絶滅の前夜、恐竜たちは、誰かと何かを食べたのだろうか」
    大阪の片隅。この世界からこぼれそうな人たちが、ふっと息をつけるうらぶれた居酒屋「飛鳥」。

    ・本日のフランス料理「ちくわぶとねぎのグラタン」
    ・自動販売機の50円のカフェオレチューハイ
    ・猫も喜ぶどて焼きオムレツ
    ・裏メニュー「ぐちゃまぜ豆腐丼」

    雑であたたかなごはんと、傷を負った人々の泥臭いぬくもりを描いた、絶望のなかにあるちいさな灯りの物語(全4編)。



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