• 蓼科にある小さなハーブショップ「ハーバルノート」の店主で、ハーバリストの萩尾エリ子さん。ハーブに寄り添う暮らしと、そこから紡がれるエッセイ集『香りの扉、草の椅子』が再販されました。蓼科での四季を追った美しい写真が圧倒的で、見て、読んで、優しい気持ちになれる一冊です。本書の第一章「冬は野を想い」より、エッセイ「薬草の家」を紹介します。

    薬草の家

    画像1: 薬草の家
    画像2: 薬草の家

    人生はつづれ織りのよう。命の縦糸に色とりどりの横糸を入れて、その人の物語が織られてゆきます。

    私の横糸は草と香りになりました。その風合いは柔らかく、良い匂いがして、私を静かに包みます。

    季節の中で生まれた、細く美しいひと糸ひと糸をご案内したいと思います。細いけれど、決して切れることのない、しなやかな糸。あなたのお役に立つことを願って、お話を始めましょう。

    さあ、どうぞ。扉は少し軋むのですが、ご容赦下さい。ふわりと良い匂いがするでしょう。棚に並んだ瓶の中のハーブたちは、必要とされる時を静かに待っています。乾いた花びらや草の葉、根や種や木の皮が、それは美しい色をして眠っています。精油たちも香りを閉じこめて、息を潜めています。ストーブに火を入れて、部屋が暖まってきました。湯気をたてたサービスティーも召し上がって下さい。

    画像3: 薬草の家
    画像4: 薬草の家
    画像5: 薬草の家

    遙かな国々で摘まれた薬草は、お湯をそそげば美しい色を取り戻し、かぐわしいお茶になります。浴室を草の香で満たすバスハーブ。万華鏡のようなポプリ。現代の錬金術師の生み出す、ひと滴の精油。清冽で穏やかな芳香蒸留水。種にはまだ見ぬ草の姿が。苗には緑なす季節を想う。ひとつひとつが、心をかけて探し、作り出したものです。私にとって、ここはどこにもない店なのです。

    街から離れた不便なところです。それでも、凍るような日、雪の日にも訪ねる人がいます。必要なものは見つかりましたか。少し身体は緩みましたか。私はそっと、心の中でお客様の後ろ姿に声をかけるのです。

    私の先生はたくさんの本と自身の手、扉を開いて下さるお客様と蓼科の自然です。巡る四季は、ともすれば走りそうになる私に、息をつくリズムを教えてくれました。仕事と暮らしの中で、ハーブの柔らかな作用と精油の頼り甲斐を知りました。命に寄り添い、支えることのできる小さな力を見つけました。

    窓からは、小さな林と庭が見えます。さくさくと雪を踏めば、どこからともなく、草を知る猫たちがやってきます。雪の下では緑の子供たちが、光の長さを測りながら春の準備を始めたようです。

    冬は身体を温め、想いを温める時。もう一杯、お茶は如何ですか。

    画像6: 薬草の家


    <撮影/寺澤太郎>

    萩尾エリ子(はぎお・えりこ)
    ハーバリスト。ナード・アロマテラピー協会認定アロマ・トレーナー。日々をショップという場で過ごし、植物の豊かさを伝えることを喜びとする。著書に『八ヶ岳の食卓』(西海出版)、『ハーブの図鑑』(池田書店)ほか。
    ◉蓼科ハーバルノート・シンプルズ
    長野県茅野市豊平10284



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