(『天然生活』2016年5月号掲載)
読めば朝から三文の徳
人づきあいのことわざ
継母の朝笑い
朝から継母の機嫌がよくても何か裏があるのでは、と疑う様子を表します。
古今東西、継母というものは「意地悪で継子をいじめる」というイメージがあるらしく、イギリスには「継母には用心せよ、継母というだけで十分だ」ということわざがあります。また、「朝のぴっかり姑の笑い」のように、朝のお天気とお姑さんの笑顔は信用できないという意味のことわざもあります。
科学が発達した世の中といっても、変わらないものもありますね。
よい隣人を持った者はよい朝を迎える
イギリス、フランス、ドイツのことわざ
最近では、ご近所づきあいが希薄ということをよく聞きますが、やはり隣に住む人がよい人であれば、それにこしたことはありません。
ロシアには「屋敷を買わず隣人を買え」ということわざもあります。日本には「遠くの親戚より近所の他人」ということわざがあります。
客の朝起き宿の迷惑
泊まったお客さんが朝早くから起きていると、泊めた側は食事の準備など対応が大変だという意味です。親しい間柄であっても、よその家だとなかなか勝手がわからないので、このようなことわざができたのでしょうか。
最近、「空気を読む」という言葉がよく使われますが、気配りをして、お互い嫌な思いをしないようにという意味を含むこのことわざは、今も昔も変わらない日本人の気質をよく表していますね。
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読めば朝から三文の徳
さまざまな朝のことわざ
朝起き千両夜起き百両
早起きして働くのは夜遅くにがんばって働くよりも効率がよいという意味のことわざです。暗いよりは明るいほうがなにかと動きやすいし、なにより、朝は体力がありますよね。
ほかにも「朝の一時ひとときは晩の二時ふたときに当たる」ということわざがあります。夜に何かすることは朝の2倍、時間がかかるという意味です。
フランスやドイツでは「朝は口に金をくわえている」ということわざがありますが、国を問わず、「朝型」が推奨されているようです。
朝は夕より賢い
ロシアのことわざ
夜にあれこれ考えるよりも、ひと晩待ってから決定したり実行したりするほうがよいという意味です。時間をおけば事情が変わることもあり、そのとき考えたことより、もっといい考えが出てきたりするものです。
また、すぐには返事をしたくないとか、話がうまくまとまらないときの時間稼ぎという意味で使われることもあるようです。
一日の計は朝にあり 一年の計は元旦にあり
よく耳にするのは後半の「一年の計は元旦にあり」でしょうか。何事も最初に計画を立てることが大切だ、ということです。
「一年の計」は三日坊主に終わりそうですが、「一日の計」ならなんとかがんばれそうな気がします。
朝寝坊の宵惑い
「宵惑いの朝寝坊」ともいいます。朝寝坊する人が、寝るときは人よりも早く布団の中に入りたがる様子をいうのですが、つまり、「よいところがない、とりえがない」人のことです。
「宵惑い」とは夜が更けないうちから眠たがることです。また、「朝惑い」という言葉もあって、こちらは「朝寝坊する、またはその人」という意味です。
朝駆けの駄賃
「(お)駄賃」というと、いまでは「簡単なことを頼んだときにするちょっとしたお礼」という意味で使いますが、もともとは、駄馬(荷物を運ぶ馬)で荷物を運ぶ料金のことです。
朝のうちなので馬もまだ元気で荷物を簡単に運べるということからきた、「とても簡単にできる」という意味のことわざです。ほかにも同じ意味で「朝飯前のお茶漬け」ということわざもあります。
<解説/海野凪子 イラスト/山元かえ>
海野凪子(うみの・なぎこ)
日本語教師。大阪生まれ、大阪在住。著書に、外国人ならではの日本語の使い方や疑問を綴った『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)、『「国際人」はじめました』(大和書房)、『大和言葉つかいかた図鑑』(誠文堂新光社)など多数。
山元かえ(やまもと・かえ)/イラスト
1978年生鹿児島育ち 主に生活や子供に関するイラストを中心に活動。 2006年より型染めによる作品制作もしている。
http://torerocamomillo.ciao.jp
インスタグラム:
https://www.instagram.com/millokae/
参考文献/『世界ことわざ辞典』北村孝一編(東京堂出版)、『いつでもどこでも使えることわざハンドブック』(池田書店)、『生きるヒント 日本のことわざ 世界のことわざ』北村孝一著(幻冬舎文庫)、『日本語を使いさばく 故事ことわざの辞典』(あすとろ出版)、『総解説 知りたい言葉の由来を読む 豊かな知識を育む実用百科 新装版 世界の故事・名言・ことわざ』(自由国民社)
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです